それが現れたのは、大化の改新が終わって律令国家が成立した頃だった。 　一学期の日本史は、担任の休職で外部から呼んだ先生が臨時で受け持つことになった。 　この先生は熱心で、機材が豊富な社会科教室を使うことにしたのだ。 　移動を面倒がる奴もいたが、元々日本史が好きな俺は詳細な授業を聴ける期待もあって愉しみにしていた。 　しかも席は自由だった。選択科目で人数に余裕があり、程よい距離感と好きな場所で授業を聴くことが出来る。 　スライド全体が快適に見える、廊下側から二番目、かつ後ろから二番目の席が俺の定位置となった。 　いつもの席に着いて、椅子を引いた時点で違和感を覚えた。 　机の右下に、落書きがある。走り描きじゃない。ある程度時間と手間がかけられた存在感のある秀作だった。 　しかもそれ、何を描いているのか俺には判ってしまった。 　某ロボットアニメに出てくる敵のキャラクターだ。 　そのアニメは人気があるが、複雑な内容を全面に出した濃い作品で、しかもここに描かれているのは六番目くらいに登場する人外の敵だった。それが判ってしまう俺も大概濃い。 　席に着いて、教科書やノートを取り出しながらもその落書きが気になってしまう。 　自信作なのか、絵の周りにきらきら装飾がある。実際その敵は人型ではなく光沢のある多面体だから、描写として間違ってはいない。 　知らない奴が見たらただのきらきらした四角だが、俺は違う。 　アニメ、続編の映画、一通り観たから判る。これは六番目の奴だ。 　いつも愉しみにしている授業が、気づいたら二十分近く進行していた。 　俺は慌ててシャープペンを持ち直すが、どうも目が右下に泳いで行く。 　俺はその落書きにシャープペンを向けてみた。 　それを描いた奴みたいに画心もなければ、専ら観る専門で描くのも全くの不得手だ。 　それでもその敵に線を数本加えて、そいつが触手で地下にある主人公の基地を攻撃している様子を再現した。 　特に深い意味があった訳じゃない。 　これを描いた奴が、俺が描いた続きを見るかなんて判らなかった。 　ただ、ああこれ、知ってるよくらいのつもりで、軽く拾ってみただけだった。