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鮮烈な闇夜の彼との出会いから半年以上が経っていた──。
そして、俺はあの日からお守りみたいに黒い服を着るようになった。
陰キャが黒を着たらますます陰キャに磨きが掛かるため母は酷く嫌がったが、俺は黒を着るといつもより自分が強くなったがした。ツイていない俺が少しだけツイてる錯覚に陥れたのだ。
俺はある日の明け方、並んだばかりの少年漫画雑誌を求めるべく、納品時間を前もって調べたコンビニへ駆け込むと秒でレジへ持ち込んだ。
待ちきれずにコンビニを出てすぐにバラバラと中を捲った。
そこには、投稿5度目にしてなんとか審査員特別賞にしがみついた俺の応募作品が掲載されていて、やっと自分の作品が日の目を見る日が来たのだ。
──俺は運動神経も特に良くなければ見た目も普通、コミュ障のしがないオタク陰キャだ。
闇夜の彼のように颯爽と現れて、目の前の悪党をバッタバッタと斬ることは出来ないし、誰かを救うなんて以 ての外 だ。
だけど漫画だけは小さい頃から頑張れる自信があった。
他の誰よりも上手いと自負するまではいかないが、今日も明日も描き続けられる自信だけはあった。
だから幼い頃から漫画家になるのが俺の夢で、その夢に今日はグッと近付けた。
俺はあの夜に彼に会った時と比べ物にならない高揚感に包まれながら、気恥ずかしい反面彼にこれを見せて自慢したい気持ちにもなった。
何 にもできない俺だけど、ずっと漫画を描き続けて今日はようやくそれを褒められた日なんだよと、親友みたいに話したかった。
「会いたい……」
思いはとうとう口を飛び出した。
本当はあの日からずっとずっと、もう一度会いたいと思い続けていた。黒い服だって半ばおまじないみたいなものだった──。
──名前は? 歳は? 普段は何をしているの? どうしてあの時、俺を助けてくれたの? 今は何をしているの?
「俺は漫画を描いてるよ。それでね今回君のことを漫画に描いたんだ。これを読んだら君は怒るかな?」
──それはファンタジーヒーローの物語。
普段は人間の姿をしている彼は、助けを求める声の場所 へと急ぐため、月の出ている夜だけは金色の狼へと変身する。
幾つもの高いビルをなんなく移り飛び、危険に晒されたヒロインの元へと颯爽と駆けつける。
助けられたヒロインは自分を救ってくれる彼 の正体を知らない。彼 が本当は毎日通う高校のクラスメイトで、口さえ開けばすぐ喧嘩になってしまう少しだけ不良 な男子生徒である事を。
人の姿をしている間は、彼も彼女もなぜだかお互い素直になれない。本当は二人、互いに思い合っているのに──。
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