11 / 13
第11話
「何にする? ザッハトルテ? ティラミス? それとも、フルーツタルト?」
ウェイターのトレイには、華やかなケーキがたくさん並んでいる。
バーラと共に席に着いたニネットは、それらのケーキを勧めてみせた。
「いくつでも頼んでいいから!」
そう言うニネットに、バーラは小さな声で、イチゴ、とだけ言った。
トレイの上でひしめく豪華なケーキの中に、シンプルなイチゴのケーキ。
これがバーラの、今の心を表しているのかな、とニネットは考えた。
だがそれを、否定はしなかった。
もっと美味しいケーキはいくらでもあるとは、言わなかった。
運ばれてきたイチゴのケーキを、バーラは黙って食べた。
熱い紅茶で舌を少し火傷してしまったが、それをニネットに言う事もなかった。
ただ、ケーキは甘くておいしかった。
紅茶も温かく、バーラの身を、心を潤していった。
「おいしい?」
「……うん」
二人が交わした会話は、これだけだった。
それでもニネットは安心したし、バーラの心も血を流すことをやめた。
ともだちにシェアしよう!