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 ―― 日常の快楽(6)

 凌が抱きしめる力を抜いて、僕の顔を覗き込む。 「放っておいてよ」  凌の視線が居心地悪くて、顔を背ければ、凌に顎を掴まれて戻される。 「放っておけないね」  そう言って、凌は唇を重ね合わせてきた。 閉じたままの僕の唇を、凌の舌先が突ついてくる。  それでもじっとしていると、凌は僕の上唇をキツく吸い上げて一度離して、唇が触れ合う距離で情欲に濡れた眼差しを向けてくる。 「ちゃんとキスさせろよ」 「今、した」 「そうじゃなくて……」 「キスなんかしなくても、満足できるんでしょ? 早くやってよ」  どうせ、こいつらにとって、僕はただの性欲処理の為の存在だってことは、知ってる。  だからキスなんて、必要ないじゃない。 「…… 伊織…… こっち向けよ」  また顎を掴まれて、上を向かされて唇を寄せられる。 「嫌……」  拒否する態度を見せても凌は、強引に唇に貪り付いてくる。 「嫌だってば!」  凌の胸を押して顔を背けて叫んだのに、凌は僕のブレザーを乱暴に脱がせて、ネクタイを引き抜いた。  肘の所で絡まったままのブレザーをそのままに、今度は力任せにシャツの前を開けた。  パラパラと、幾つかのボタンが飛び散っていく。 (まったく…… これじゃ、この後教室に戻れないじゃない……)  露わになった首元に、凌が顔を埋めて吸い付いてくる。 ピリッとした痛みが、全身を駆け巡った。 「ん……ふ……、」  思わず硬く閉じた唇から、吐息が漏れてしまう。  凌は執拗に、首筋に赤い所有の印を付けて行く。 「ぁ…… ダメ…… あんまり付けたら……」 (また…… あの人に怒られる)  太陽を浴びてキラキラ光る凌の髪に指を挿し入れて後ろへ流しながら、最後まで言えない言葉を吐いた。 「…… 伊織……、」  凌は顔を上げて、また唇を重ねようとする。 無言で顔を背ければ、耳朶を優しく食まれた。 「なんでダメなんだ? それ以上の事は何でもさせるくせに。 いつになったら、ちゃんとキスさせてくれんだよ。 もう1年の付き合いなのに」  僕の頬を両手で包み、見つめてくる瞳は、切なさと情欲が混ざり合う。 「僕の欲しいものをくれたら……」  譫言のような言葉が、勝手に僕の唇から出て行く。 「やるよ、お前の欲しいものなら、何でもやる」 「じゃあ、この身体を愛してみせてよ。 凌が居ないとダメだと思うくらい、もっと僕を愛してみせてよ」

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