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―― 日常の快楽(7)
―― あの人ともう一週間も逢えてない。
逢いたくて…… 逢いたくて……、心も身体も悲鳴をあげている。
あの人の事を愛している。 だけど…… どんなに愛しても、どんなに抱かれても、満たされなくて。
きっと僕は飢えているんだ。
「伊織……」
凌がこめかみにキスをして、耳元に移動した唇が熱い吐息と共に、僕の欲しい言葉を囁いた。
「…… 愛してる」
あの人の口から聞きたい言葉を、凌は耳の溝を舌でなぞりながら、何度も囁く。
「…… 愛してる、伊織」
「…… そんなの、言うだけなら誰でも言える」
僕の欲しいのは…… もっと………
「今まで何度も抱いたのに、分かんないのかよ。」
尖らせた舌先が、耳の奥で水音を立てる。
「…… ん…… ぁ…」
耳の奥を熱く濡らされる感触に、ぞくぞくと肌が粟立った。
「お前が信じなくても、何度でも言ってやる」
―― 愛してる。
その言葉は麻薬のように、僕の身体を震わせる。
凌は少し屈んで、僕の顔を覗き込むようにして、唇を重ねてきた。 熱を持った舌は唇を割り、噛み締めた歯列をなぞる。
―― キスは嫌いだ。
深いキスを交わすと、相手の事を好きになったと勘違いしてしまいそうで。
凌の舌は、歯列から頬の内側を撫でていく。 根気良く何度も何度も往復する舌に、咥内が熱く蕩けていく錯覚がする。
身体の力が抜けて、初めて自然に凌の舌を迎え入れた。
僕の舌を絡め取り、吸い上げて、噛み付くようなキスを角度を変えて繰り返す。
凌のキスは荒っぽい。 ―― あの人のキスは…もっと…
僕は目を閉じて、そしてまた思い出してしまう。
どんなに愛してると囁かれても、どんなに深いキスをされても、やっぱり同じなんだ……。
誰もあの人の事を忘れさせてくれない。 あの人じゃなきゃ感じない。 あの人以外愛せないのに……。
それなのに、身体の疼きは我慢できなくて、快楽だけを探し求めてしまう。
キスに夢中になっている凌の胸を押し返して、やっと唇が離れた。
「早く抱いてよ。 もう我慢できない」
身体は熱くなるのは簡単なのに、心の温度は上がらない。
もっと何もかもを忘れさせてくれる何か……。
その訳の分からない何かを、僕はずっと探しているのかもしれない。
「ああ、抱いてやる。 俺なしではダメだと思うくらい、愛してやるよ」
そう言って凌は、僕の身体をフェンスに押し付けて鎖骨に舌を這わせた。
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