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―― 日常の快楽(10)
「ん…… ッ」
数度に分けて凌の咥内に、僕の欲を放つ。 凌は、喉仏を上下させてこくりとそれを飲み込むと、「どうだ?」と言わんばかりに口角を上げ、僕を見上げてくる。
そして、僕の荒い息を止めるように、唇を重ねてきた。
侵入してくる舌に、僕の舌は絡め取られて、凌の咥内へと誘い込まれる。
苦い味と、独特の匂いが口の中に広がった。
「…… ふ…… んっ…… や……だ」
凌の咥内には、僕が吐き出した精液がまだ残っていて気持ち悪い。 思わず頭を振って、追いかけてくる凌の舌から逃げた。
「…… 伊織」
「キスはもういいから、早く挿れて」
そう言って凌に背を向ける。 フェンスに指を絡め、腰を突き出して、肩越しに凌を振り返った。
「早く、僕の中を凌でいっぱいにして」
僕がそう言うと、凌は自分のベルトをガチャガチャと急いで外して、制服のズボンの前を寛げると、硬く勃ち上がったものを取り出した。
それは血管を浮かせて、脈打っていて、先端からは蜜が溢れて光ってる。 まるでそこだけが違う生き物のように見えた。
凌は僕の腰を後から掴んで引き寄せて、その切っ先を後孔に宛がい、耳元に唇を寄せた。
「伊織…… 何かあったのか? 今日はやけに急かすよな」
「…… 別に……」
そう言って、強がって見せるけど、本当は…… もう気が狂いそうなんだ。
あの人に逢えない日が続いてて、あの人に触れて欲しくて、あの人の体温を感じたくて。 ぽっかりと空いてしまった、隙間を誰かに埋めて貰わないと、狂ってしまいそうに寂しくて。 誰でもいいから、あの人の代わりになって欲しいだけ。
もう一度肩越しに凌を振り返って、縋るように言葉を繰り返した。
「…… 早く……」
「分かってるよ。 だけど伊織って、バックが好きだよな」
言いながら凌の手が双丘を掴んで割り開き、宛がわれた熱い切っ先がゆっくりと埋め込まれ、身体の中が凌の形に押し開かれていく。 その感覚に背筋が戦慄いた。
僕は、前を向いて目を閉じる。
別にバックが好きってわけじゃないんだ。 だって、顔が見えたら熱が冷めてしまう。
閉じた瞼の裏には、いつもあの人の姿を映していた。
今、後ろから僕を抱きしめて、僕の身体の中に挿ってくるのは、凌なんかじゃない。
―― あの人なんだと、自分に言い聞かせながら。
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