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―― 日常の快楽(11)
「―― あぁーッ」
凌に腰を動かないように両手で固定され、途中までは窺うようにゆっくりと入ってきていた肉棒に、いきなり一気に奥まで貫かれた。
熱い切っ先が身体の深い処を抉るように突き上げてくる。
ガシャンガシャンと、フェンスの音が煩く鳴り響いた。
―― 今、僕の身体を後ろから突いているのは、凌じゃない。
今、僕の腰をキツく抱き締めてるのは、凌じゃなくて、あの人なんだ。
動く度に揺れる、少し長めの前髪の隙間から、僕を射抜くように見つめる鋭い瞳。 細いのに筋肉質な、しなやかな身体。 僕を見下ろしながら、時々見せる切なげな表情も、好きなんだ。
「愛してる」
耳元に聞こえてくる、麻薬のような言葉。
それから僕の名前を呼んでくれる。
―― 愛してる、伊織。
だけど……
「ぁ、あ、もっと強く、もっと!」
足りなくて、僕は叫んだ。
「―― 伊織っ、そんな大声出したら…… !」
背後から伸ばされた大きな手が、僕の口を塞いだ。
「―― ん、ッ、ッ、」
凌の手のひらの下から声を出して訴えても、言葉にはならなくて、くぐもった声が漏れるだけ。
―― もっと、強く。 もっとめちゃめちゃにして。
凌の動きが、徐々に小刻みになってきてる。
―― まだ足りないのに。 これじゃあ、僕の中の隙間は埋まらないのに。
もう、あの人の姿を映す事ができない瞼を開けて、 僕は、春の景色へ視線を向けた。
太陽の光が、穏やかに流れる川の水面をキラキラと照らしている。 川の流れに沿うように並ぶ、何処までも続く桜のグラデーション。
耳元で呻き声が小さく聞こえて、じんわりと身体の奥に熱が広がっていく。
凌が果てたのが分かった。
彼の荒い息が、耳をくすぐる。
なんだか急に血の気が下がったように、寒気がする。 そして何故か…… 目の前が真っ暗になってしまって、春の景色が見えなくなってしまった。
―― 伊織
遠くで誰かが、僕の名前を呼ぶのが聞こえて、消えた。
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