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—— 日常の快楽(13)
袋から出してきたのは、ボタンが飛んでしまった僕のシャツ。 ―― じゃあ、僕が今着てるのは?
布団を捲って確認すると、制服のシャツはちゃんと着ていて、ボタンが上から3つ外してある。
「それは、学校で準備してあるシャツだよ」
自分の着ているシャツを眺めている僕に、先生がそう説明した。
「…… そうですか」
「で? 屋上で何をしていたのか、教えてくれないかな」
先生は、ボタンの取れたシャツを綺麗にたたんで紙袋に入れながら、また質問をしてくる。
「…… 別に……、何も」
真っ直ぐに見つめてくる先生の視線が鬱陶しくて、ふいっと顔を背けると、小さい溜息が聞こえた。
「鈴宮くん」
「―― っ、な、何?」
名前を呼ばれ、いきなり掛けていた布団を剥ぎ取られて、驚いて上半身を起こすと、先生は、僕の着ているシャツの襟元に手をかける。 そして3つボタンを外してある部分を左右に開いた。
「俺はね、怒ってるんじゃないんだよ? 心配しているんだ」
「…… なに、を?」
先生は、開いたシャツの間から、僕の首筋から胸元を見ている。
「…… 離して」
襟元を掴んでいる手を振り払って、僕は外してあったボタンを一つずつとめた。
「もしかして、さっきの…… 速水くん? 3年生だよね。 いじめられてるとか……」
先生の言ったことが的外れ過ぎて、我慢できずに、クスッと小さく笑ってしまった。
「…… 虐められてなんか、ないよ」
「だけど……、」
僕が違うと言ってんだから納得すればいいのに、先生がしつこく聞いてくるから、少し、からかいたくなってしまった。
「…… だけど? 何なの? そんなにキスマークが珍しいの?」
「…… え?」
今、とめたばかりのボタンを、もう一度上から順番に外していくと、先生は驚いた表情で僕を見た。
首筋は、自分では見えないけれど、ボタンを外していくと、胸から腹にかけて幾つもの紅い跡が付いていた。
(…… あんまり付けないでって言ったのに)
全部さっき凌が付けたものだ。
「―― 鈴宮くん、もういいから! ボタンをとめなさい!」
そう言って、先生はボタンを外す僕の手を押さえて止める。
「…… どうして? 聞きたいんでしょう? 屋上で何をしていたのか」
先生の手に押えられた自分の手を引き抜いて、今後は逆に先生の手の上から、ふわりと重ねてやった。
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