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 ―― 日常の快楽(14)

 握った先生の手を、直接肌に触れるように胸元へ導いた。 「鈴宮くん?」  先生がその手を慌てて引き抜こうとするのを、阻止するように力を入れて引き止める。 「先生、よく見てください。 この身体のどこに僕が虐められた跡があると言うんですか」 「…… それは…… だって……」  言いかけて、先生がまた手を引こうと一歩後退りする。 「…… だって、何?」  僕はベッドに座ったまま、足を床に下ろして、逃げようとする手を引き戻した。 「その……、こんなボタンが飛んでしまうなんて、速水くんに無理矢理そういう事を強要された…… とかじゃないのか? 男子校にはよくあることだって、聞いたから……」  僕が手を引き寄せたことで、先生との距離が縮まった。  下から見上げると、先生の顔は強張っていて、焦ってるのが分かって面白い。 もっとからかいたくなってしまう。 「へえ、そんな噂があるんだ…… 知らなかった」  先生の手を右手で引き寄せながら肩に左腕を回して立ち上がり、耳元に唇を寄せて、「これは…… 凌が付けた跡じゃないですよ」と、囁けば、彼の身体がピクリと震えたのが分かる。 「え…… でも……、このシャツのボタンは……」 「凌とは屋上でふざけ合っていて、度が過ぎただけです。 それとも……」  完全に俯いてしまった先生の顔を下から覗き込んで、誘いの言葉を試してみる。 「それとも、僕とやってみる? 先生の言う、そういう事……」 「―― なっ? やめなさい!」  顔を少し近付けたところで、先生に突き離された身体は、またベッドに逆戻りした。 「大人をからかうもんじゃないよ、鈴宮くん」  さっきまで優しい態度だったのが嘘のように、そう言った時の先生の顔が一瞬すごく冷たくて、背中がぞくっとした。 「あ…… はは、すみません。 ほんの冗談のつもりだったのに……」

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