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第二章:愛執(1)
――『愛執』
愛するものに心囚われて、離れることなんで出来はしない――
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唇を舐め、食むように啄み、軽く吸い上げ、リップ音を立てながら離れる。
――それが始まり。
逞しい腕で腰を引き寄せられて、導かれるまま膝の上に跨がるように座った。
唇全体が父さんの唾液に濡れていくのが心地よくて、僕は何度も強請るように、僅かに離れる唇を追いかける。
何度かそれを繰り返してから、父さんの舌が唇を割り入り、僕の舌を甘く絡め取った。
この時をどれ程待ち望んでいたか。 漸く恋しい人と身体の一部だけでも繋がれて、キスしただけでこんなに嬉しい。 僕は父さんの熱い舌に自分のそれを必死に絡めて応えた。
咥内で熱が混ざり合い、次第に水音が静かに漏れ始める。
「…… ん…… ふ…… っ……」
咥内を舌で愛撫されて、僕の身体はすぐに熱く蕩けていく。
頭の芯まで熱に浮かされた感覚に、グラリと視界が揺らぐ。
口の端から、唾液が零れ落ちていくのを、父さんが舌で掬う。
僕の髪を繊細な指で梳きながら、「まだ髪が濡れてる」と、お互いの唇が触れる位置で囁かれただけで、僕の身体は反応した。
名残惜しく唇を離し、父さんの舌は頬から耳を舐めて、瞼にキスをくれる。
閉じた瞼の上で、舌先が眼球をなぞるように優しく動くと、腰から背中へぞくぞくとした甘い痺れが走る。
眼球ごと瞼を柔らかく吸われた後に、唇で睫毛を掠めるように愛撫する。
「…… あ…… は…… ぁ……」
自然に漏れた声は、また唇を塞がれて飲み込まれ、消えていった。
「…… ふ…… ぅ…… ぁ……」
また咥内を余すとこなく、舌が這う。
送り込まれる唾液が、咥内で僕のと混ざり合って、水音が大きくなっていく。
—— クラクラする…… やっぱり…… 凌のキスとは違う。
身体の力が抜けていき、僕は父さんに縋り付くように身体を委ねた。
繊細な指が、僕のシャツのボタンを下から一つずつ外していく。
「伊織、そう言えばさっき、高校の担任から電話がかかってきたよ」
ボタンを外しながら、合わせていた唇を少し離して言われた言葉に、意識が引き戻されるように、我に返った。
「…… 担任…… なんて?」
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