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 ―― 愛執(3)

 不意に僕の髪を梳いていた父さんの指が、襟足の髪を掻き分けるように動いて「伊織……」と、いつもより低い声で名前を呼ばれた。  夢中になっていた行為を止められて上目遣いに父さんを見ると、少し伸びた前髪の隙間から、心の中まで見透かすような鋭い視線が向けられていた。  ゾクゾクするような冷たさを含んだ眼差し。  何かが、父さんの気分を害してしまったのだと分かった。 「…… 伊織、もういいから、ズボンを脱ぎなさい」  僕は、その通りに従う。 ベルトを外して、ズボンを脱いだ。 「…… 下着もだよ」  言われた通りに下着も脱ぎ捨てる。  上に着ているシャツの裾に隠れているけれど、僕の中心は、触れてもいないのに硬く勃起して濡れそぼっている。 「おいで」と、言われて膝の上に跨ると、父さんの腕が腰に回って強く抱き寄せられた。  父さんの首に腕を回せば、お互いの身体がぴったりとくっつく。  尻臀を掌で撫でられただけで、膝の上で身体がぴくんと跳ねてしまう。  早くそこに触れて欲しくて、入り口が誘うようにひくついているのが自分でも分かる。  後孔にゆっくりと近づいていく指先を肌に感じると、閉じた瞼の裏にあの繊細な指の形を思い浮かべて胸は高鳴った。 「…… あ……」  窄まりに指先が触れた途端に、思わず声が漏れてしまう。 もどかしく動く指に、早く挿れてと催促するように腰が揺れてしまう。  なのに、その指が触れている感覚が不意に消えてしまった。 「…… 伊織……」  耳元で熱い吐息混じりに低い声で名前を呼ばれ、続けられた言葉に戦慄する。 「誰に抱かれた?」  父さんは、僕のうなじに指先で触れながらそう言って、耳朶を噛む。 「…… っ……」 「こんな目立つ処に跡を残すなんて。 さっき電話を掛けてきた担任じゃないな。 若い男か?」  噛まれた耳朶がジリジリと痛む。 「…… 言わないつもりか?」  言いたくないんじゃなくて…… 声が出ないんだ。  ―― 怖くて。  ぴったりとくっついていた身体を僅かに離して、シャツのボタンを上から一つずつ外していく指先を、ただ見つめていることしか出来なくて。  ボタンを全部外したシャツは、ゆっくりと肩からずらされて、床へストンと落ちる。  僕の身体を、じっと見つめる眼差しが怖い。  ―― 怖いけど…… 好き。

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