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—— 愛執(13)
父さんが言ってくれた言葉が嬉しかった。 強く抱きしめてくれたことが、嬉しかった。
ひとしきり泣けば、気持ちは少し落ち着いたけれど、突然知った真実の重さは時間が経っても、そう簡単には軽くはならなかった。
「…… お前の気持ちも考えずに、いきなり会わせたりして、すまなかったね」
頭を撫でてくれる優しくて温かい手と、僕を安心させてくれる低い声。
今迄と何も変わらないんだ。
そう自分に言い聞かせても、知ってしまった事実が心を支配して、また不安が押し寄せてくる。
「僕、ここに居ても良い?」
「当たり前だろう? ここはお前が生まれて育った家なんだから」
「僕はずっと、父さんの子供だよね」
「そうだよ」
さっきあの人が言ったことは、忘れてしまえば良いんだ。 もうあの人に会わなければ…… 時が流れて記憶が薄れてしまえば、きっと無かったことにできる。
何より、父さんと僕は、13年間親子で過ごした真実の時間があるんだから。
—— きっと…… 大丈夫。
***
夕暮れが近付いて、僕は早めの風呂を済ませた。
風呂から出て、タキさんが用意してくれた浴衣を着る。
もう、お祭りになんて行くような気分ではなかったのだけれど。
『…… 気分転換に、行って来れば良い』
父さんがそう言ってくれたから……。
母さんが作ってくれていたという浴衣は、藍の地色に、織りの格子のインディゴが すっきりとしたイメージで、シンプルなものだった。
凹凸のある織り方が肌触りよくて、風呂上りの肌の上をサラサラと包む。
「…… 父さんは?」
僕が風呂から出てきてから、父さんの姿が見えない。
それだけのことなのに、今の僕は不安で仕方なかった。
「ちょっと出掛けてくるとだけ、仰ってましたけど。 軽装でしたから、すぐにお帰りになりますでしょう」
(—— 何処へ行ったんだろう)
タキさんが、すぐに帰ると言っているのだから、今迄の経験上、本当にすぐに帰ってくるんだろうとは、思うのだけど。
今日はやっぱり、さっきの事が心に引っ掛かっていて。
(僕は、少々心配し過ぎだ……)
夕刻に父さんが出掛ける事は、別に珍しいわけでもないのだから。
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