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―― 愛執(15)
街を流れる川沿いの遊歩道に、露店が並んでいる。
沢山の人で賑わっていて、最初は集団で行動していた僕達も、あちこちの屋台に寄り道している間に、段々と散り散りになってしまっていた。
でも、この先のグランドで花火が打上げられる頃には、一応その近くで集まる約束はしているから大丈夫。
僕と菜摘ちゃんは、一番後ろから皆に付いていっていて、いつの間にか前の集団と逸 れてしまい、二人だけになっていた。
二人きりになってしまったことで、普段からおとなしい菜摘ちゃんが余計に喋らなくなって、僕達は無言のまま人の波に押されながら進んでいた。
「菜摘ちゃん、大丈夫?」
人混みとこの暑さだから、少し心配になって菜摘ちゃんに尋ねた。 髪を上げたうなじは、火照ったように紅く染まっていて、薄っすらと汗を滲ませてる。
「うん…… 伊織くんも大丈夫?」
「僕は、大丈夫だよ」
そう言いながら、持っていたうちわで、菜摘ちゃんのうなじの辺りに風が届くように扇いであげた。
「伊織くん、優しいね」
恥ずかしそうに、でも優しく微笑む菜摘ちゃんは、すごく可愛いと思う。
「もうすぐ花火の時間だね。 ちょっと急ごう」
花火が始まるまでには、待ち合わせの場所に着いておかないと。
そう思って、先を急ごうとすると、隣で歩いていた菜摘ちゃんの歩く速度が、急に落ちてきたのに気が付いた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと人混みに酔ったかな。 足もちょっと痛くて」
「え? 大丈夫?」
暗くてよく見えないけれど、菜摘ちゃんは慣れない下駄で、鼻緒が指の間で擦れて赤くなってしまっているようだった。
「うん、大丈夫」
菜摘ちゃんは、そう言うけれど…… 何処かで休んだ方がいいかな。
「あ、ねえ、かき氷食べない?」
菜摘ちゃんが、氷と書いてある屋台を見つけて、指をさした。
「そうだね。暑いし。 食べようか」
人混みに酔ってるし、暑さを凌ぐ為にも、かき氷を買ってどこかで休んだ方がいいかもしれない。
菜摘ちゃんはイチゴで僕はレモンのシロップをかけてもらったかき氷のカップを手にして、僕たちはまた歩き始めた。 ゆっくりと菜摘ちゃんの歩幅に合わせながら。
汗ばんだ手を、冷たいカップが少しだけ冷やしてくれる。
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