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―― 愛執(16)
遊歩道から、少し逸れた所に神社があるのを思い出した。 階段を登らないといけないけど、もしかしたら座れるかもしれない。
花火を観るにも、良い場所な気がするから、あそこも人がいっぱいかもしれないけど。
それでも、今の状況よりは、ましかもしれないと思って、菜摘ちゃんに提案してみた。
「…… 階段がキツいかもしれないけど、どうかな?」
菜摘ちゃんは、少し考えていたけど、
「うん、そうだね。座れる所があったらいいな」と、僕の提案に賛成してくれた。
かなり、足が辛いんだろうな。
遊歩道の人混みを抜け出した道は、少しだけ空いていて、僕達はカップに山盛りのかき氷を食べながら歩いた。
石畳の階段は、なだらかだけど、足が痛い菜摘ちゃんには、やっぱり少し辛そうだった。 その上、浴衣を着ているから、すごく上りにくそう。
「大丈夫?」
本当にすごく大変そうだと、僕はただそう思っただけだったから…… だから気が付けば、ごく自然にそういう行動を取ってしまっていたのだけど……。
「…… え?」
掴まるようにと差し出した僕の手を、菜摘ちゃんが驚いて、じっと見てる。
「あ……」
菜摘ちゃんの驚いた顔を見て、漸く僕も自分の行動に気付いて驚いてしまったけれど……。
「…… あ、いや、歩き辛そうだから……。 あんまり変わらないかもだけど、転んだりしたら危ないし……」
しどろもどろになりながら言った言い訳に顔が熱くなったけど、一度出してしまった手は今更引っ込められなくて。
でも、そんな僕に、菜摘ちゃんがニコッと笑いかけてくれた。
「ありがとう」
ふわりと僕の手に重ねられた菜摘ちゃんの手のひらのぬくもりに、胸が急に速い鼓動を打ち始めた。
白くて、小さくて、柔らかいその手を、力を入れ過ぎないようにそっと包むように握ると、菜摘ちゃんの顔も真っ赤に染まっていく。
二人の心臓の鼓動が、手からお互いの身体に伝わっていくようで、菜摘ちゃんも僕と同じくらいドキドキしているのが分かった。
もう殆ど溶けてしまっているかき氷をストローで吸いながら、僕たちは手を繋いでゆっくりと神社の階段を上って行った。
レモンシロップで口の中がすごく甘ったるくて、余計に喉が渇いてしまったような気がした。
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