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 ―― 愛執(18)

「綺麗だね」と言って、夜空を見上げる菜摘ちゃんの横顔が花火に照らされていて、  本当に…… 「…… うん、とっても綺麗だね」  夜空を彩る花火よりも、菜摘ちゃんの笑顔の方が。  好きな女の子が傍にいて、こうして一緒に夜空を見上げて繋いだ手がすごく熱くて。  昼間に感じだ胸の痛みがほんの少しだけ和らいで、代わりに違う感覚が僕の胸を締め付けているようだった。 「どうしたの?」  花火なんて全然見てなくて、美しい横顔に釘づけになってしまっていた僕に気付いて、菜摘ちゃんが不思議そうな顔をする。  クリッとした大きな瞳に吸い込まれるように、僕は視線を外せなくなってしまった。  小学校の頃から菜摘ちゃんに抱いていた淡い想いが、一気に芽吹くように溢れ出してくる。  憧れじゃなくて、実際に触れてみたいと思った。 「…… 伊織く…… ん」  桜色した可憐な唇が小さくて動いて、僕の名前を呼ぶ。  繋いだ手を強く握ると、菜摘ちゃんの身体が小さく震えた。  ごく自然に二人の距離が縮まって、ゆっくりと目を閉じた菜摘ちゃんの長い睫毛が、頬に影を落として微かに震えている。  花火の音が遠くなったような気がしていた。  そっと触れ合うだけのキス。  まるで壊れ物でも扱うように、柔らかい唇に僅かに触れたまま、数秒間。 たったの数秒間なのに、ものすごく長い時間に感じる。  唇を離すと、菜摘ちゃんはゆっくりと瞼を開けた。 その瞳が潤んでいて、キラキラと花火の光を映していて、宝石のよう。 「…… 突然…… ご、めん」  そんな気の利かない僕の言葉に、菜摘ちゃんは小さく首を横に振って、はにかむように微笑んでくれた。  胸の鼓動は、壊れそうなくらいに激しく高鳴って、もう僕はそれ以上何も言えなくて、ただ、ただ、その瞳を見つめていた。 「ねー、待ってんだけどー、続きしねーの?」  突然暗闇の中から聞こえてきた男の声に、驚いて弾かれるように二人して立ち上がった。 (…… な、何?) 「キスだけで終わりとか、つまんねーじゃん?」  その時ちょうど打ち上げられた花火が夜空に広がって、暗闇の中の人影を明るく照らした。 「やり方が分かんねーんだったら、俺達が教えてあげようか?」  いつからそこにいたのか、二人の男がニヤニヤと笑いながら、僕達に近づいてきた。

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