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 ―― 愛執(19)

 見るからにガラの悪そうな二人は、僕達の目の前まで来ると、頭の先から爪の先まで舐めるようにジロジロと見てくる。  僕は咄嗟に菜摘ちゃんの手を引き、「行こう」と、小さく声をかけて、目の前の男達を躱して立ち去ろうとした。 「おおっとー、何も逃げることないだろ?」  だけどすぐに、一人の男が目の前に手を広げて立ちはだかり、敢え無く道が閉ざされてしまう。  こんな奴らは無視するのが一番なんだ。 だけど何度男の横をすり抜けようとしても、その度に阻まれてしまう。 「…… 何か、用ですか」 「だーかーらー、俺達、続きが見たかったんだよね。 それとも、やり方がわかんねぇのなら教えてやるって、言ってんだよ」  間を詰められて、酒臭い匂いが鼻をつく。 「やめてください」  僕は、菜摘ちゃんの手をしっかり握って、片方の手で思い切り男の身体を押し退けて逃げようとした。 「待てよっ!」  だけど男に、菜摘ちゃんの腕を引っ張られて、簡単に引き剥がされてしまう。 「きゃぁっ!」 「―― 菜摘ちゃん!」  菜摘ちゃんは、男に後ろから羽交い締めにされた状態で、恐怖に身体を震わせて怯えてる。 「は、放せよ!」  僕は必死に男に飛び掛かって、菜摘ちゃんを拘束している男の手を解こうとした。 「あー、煩いね。 王子様はやり方分かんないんだから、そこで大人しく見てろよ」  男の腕は、力強く菜摘ちゃんの身体に巻き付いていて、僕の力では到底敵わない。 非力な自分が、こんなに情けなく思ったのは初めてだった。 「ほら、お前は邪魔すんなって」  後ろから、もう一人の男に容易く身体を剥がされて、動きを封じられてしまう。 「や、イヤッ! 伊織くん、助けて!」 「――っ!」  目の前で、男の手がいやらしく動いて、菜摘ちゃんの胸を浴衣の上から鷲掴みにしているのに、どうする事もできない。  男は、菜摘ちゃんの身体を拝殿の縁に押し倒し覆い被さった。 「――んーーーッーー!」  男の手に口を塞がれて、くぐもった声で助けを求める菜摘ちゃんを助ける事もできないなんて。  浴衣の合わせから手を滑り込ませ、男の手が菜摘ちゃんの白い肌に直接触れている。  もう、見ている事ができなかった。 これ以上、菜摘ちゃんを汚されるなんて、赦せない。  無我夢中だった。  気が付けば、僕を拘束している男の腕を振り払って、渾身の力で菜摘ちゃんを組み敷いている男の身体に、思い切り体当たりした。  非力な僕でも助走を付けて飛びかかったせいか男の身体が少しだけぐらついて、怯んだところをその腕に噛み付いてやった。

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