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―― 愛執(24)
何か、鋭い凶器のような物に身体を裂かれる感覚。 入り口に熱を持った痛みが走る。
潤うはずのないそこが、濡れたように感じるのは切れて血が滲んでいるからだろうか。
恐怖と絶望で頭の中が麻痺していく。
もうこのまま意識を手放す事が出来るのなら、そうしたかった。
だけど、僕の目に確かに見えているのは、見知らぬ男の欲の滲んだ顔と、その背後の夜空に広がる美しい花火。
ああ…… やっぱりお祭りに来たのは、間違いだった。
今日は厄日なのかもしれないな……。
朝の情報番組の星座占いは、どうだったっけ。 確か、最下位は水瓶座だったと思うんだけど……。
家で父さんの帰りを待っていれば良かったな。 父さんはどこに出掛けたんだろう。
夜空に広がるこの美しい花火を、父さんもどこかで見ているのかな。
―― 父さん…… 僕を見捨てたりしないよね。 汚れてしまった身体でも。
父さんのこと、血は繋がっていなくても、世界でたった一人の肉親だと思っていいよね。
「――っ、くそ、全部入んねぇ」
焦りと怒りが、入り混じったような男の声が聞こえる。
僕の身体の中に、どれ位入ってきているのか分からないけれど、男の凶器が後ろの入り口を摩擦するように小刻みに出入りする痛みの感覚も、もう感じなくなっていた。
「まだ子供だから、孔ん中も小っちゃいんじゃねえの?」
僕の手首を押さえている男の呆れたような声と同時に、「おい、何やってるんだ!」と、遠くから誰かの声が聞こえたような気がした。
一筋の光が遠くから届いて、チラチラと僕の目に射し込んでくる。
「――っ、やべえ!」
男達は、咄嗟に僕から離れて身体が軽くなる。
汗に濡れた身体が、少しだけ冷たい夜風に撫でられた。
ラストの花火が打ち上がり、境内は一段と明るく照らされて、また闇に包まれる。
慌てた様子で衣服を整えていた、男達の気配もいつの間にか消えていた。
近付いてくる懐中電灯の眩しい光と砂利を踏む誰かの足音に、漸く頭がはっきりしてきて、僕は慌てて起き上がった。
肌蹴てしまっている浴衣の前を合わせて、落ちていた帯を拾い上げて、適当に腰に巻き付けた。
片方だけ脱げて飛んでしまった下駄は、すぐに見つけることができた。
「――おい君、大丈夫か? 怪我は?」
傍まで駆け寄って来てくれた男の人に、懐中電灯で顔を照らされる。
「…… 大丈夫…… です」
眩しすぎる光に手を翳して、顔を背けながら応えると、その人は僕の顔を覗き込むようにして目を合わせてくる。
「あれ? 君、確か…… 鈴宮先生のとこの……、」
その人は、僕も見た事のある顔だった。
この神社の神主さんで、タキさんの話では、この地域の自治会長を務めている人。
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