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―― 愛執(27)
慌てて顔を背けると、父さんの長い溜息が髪にかかった。
「さっき、自治会長さんに道で会ったんだよ」
(―― 神主さんに?!)
あのことを、聞いてしまったとしたら……。
どこまで知ってるんだろうか……。 もしも全部知っているとしたら……。 瞬時に色んな仮定が頭を過った。
「伊織、神社で何があったんだ」
父さんの質問からは、どこまで知っているかを想像することは難しい。
神主さんに、どこまで聞いたのか。 神主さんだって全てを知らないはずなんだから、あれこれ悩むのは杞憂に過ぎないのに。 言葉が見つからずに僕は下を向いてしまった。
でも、そんな僕の態度が余計に何かがあったという事を、父さんに知らせる事になる。
「伊織、此方を向きなさい」
大きな掌に頬を包むように固定されて、上を向かされる。
「――ッ…… や、」
玄関の照明に顔を照らされて、眩しくて目を眇めた。
「少し腫れているな。 顔を殴られたのか?」
「…… うん…… でも大したことないから……」
そう、それだけ。 顔を殴られただけなんだ。
「会長さんは、二人組と言っていた」
僕の顔から視線を外さずに、父さんの手が浴衣の帯へと滑り落ちていく。
「何をされた?」
適当に巻いていた帯の結び目に、父さんの指が差し込まれて、ぐっと力を入れて引く。
「え、あ、待って……、」
簡単に結び目を解かれて、帯はスルスルと床に落ちていく。
浴衣の前を広げた父さんの顔の表情が変わったから、僕は、父さんの顔から自分の身体へと視線を落とす。
鳴尾に大きな打撲痕。 膝蹴りをされたところだ。
他にも、殴られた痕や、擦り傷もあちこちにあって、暴行の跡は色濃く残っている。
家に帰るまで歩くことに必死すぎて、痛かったけれど、こんなに怪我をしているとは思ってもみなかった。
「どこのどいつだ、お前をこんな目に合わせたのは」
そう言った、父さんの低い声が震えている。
そして、まだ腰から下を覆っていた浴衣を払い退けた瞬間父さんは目を瞠り、続けた言葉に僕は戦慄した。
「伊織、下着はどうした」
「…… あ……」
浴衣の下には、何も着けていない。
神社で無理やり脱がされて、どこかに投げ捨てられたから。
神主さんが来てくれた時、慌てて探したけれど、花火も終わって一段と暗くなった境内では、見つけることができなかった。
「後ろも見せてみなさい」
そう言われてもなかなか見せようとしない僕に痺れを切らし、父さんは無理やり僕の浴衣を剥ぎ取ると、そのまま廊下へうつ伏せに押し倒した。
「背中全体にも打撲痕がこんなに…… それと……」
父さんの指が背中をなぞり、尻の割れ目に降りていく。 そして、苦しそうな声で呟いた。
「…… 血が付いている」
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