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―― 愛執(33)
露わになった肌にキスが落とされていくのを意識の片隅に感じながら、僕の心は暗闇の中に閉じ込められたままだった。
どうして…… こんな事になったんだろう……。 昨日までは、平凡だけど、とても幸せだった。
母さんが死んでしまって悲しかったけど、それでも僕には父さんがいて、友達もいっぱいいて、学校が楽しくて。 僕の周りには、たくさんの光に満ちていた。
夜寝る前に今日一日を振り返って、また明日がくるのが楽しみだった。 嫌なことがあっても、何かしら希望を見つけることもできたから。
これから僕はどうなるんだろう……。 父さんは、僕が嫌いになったのかな。 僕の身体が汚れてしまったから?
―― 僕のこと、手放さないと言ってくれたのに。
もう何も考えたくなくなっていた。
遠くに思いを馳せれば、暗闇の中に懐かしいあの頃の光景が見えてくる。
街を流れる小さな川は、ずっと先の海まで続く。 川の横の遊歩道は、僕の好きな散歩道だった。
春は桜が綺麗に咲いて、父さんと母さんと僕と3人で手を繋いで歩いたっけ。
夏のお祭りも3人で出掛けたよね。
あまりにも人が多過ぎて、大人の腰までも身長がない小さい僕は、人の波に揉まれて息苦しくて。 そんな時は、父さんが肩車をしてくれたっけ。
いつだったか夜中に高熱を出した僕を、大きな背中に負ぶって、大通りまでしか来てくれない救急車まで走ってくれた。
僕の頭を撫でてくれる、優しくて大きな手。 寡黙だけど、どんな時も暖かく包み込むように、愛してくれていた。
僕は…… 小さい頃から、父さんが大好きだった。
「…… お前は、私だけのものだ」
低い声が耳元に届いて、僕は薄く目を開けた。
「…… 私から、離れることは…… 許さない」
低い声で紡がれた命令は、だけど甘い響きを含んでいて。
少し長めの前髪の隙間から、さっきと同じ、今まで僕が見たことのない瞳に見つめられていた。
いや違う…… 僕はこの目を見たことがある。
そうだ、あの日だ。
あの夏の日、雲一つ無い青い空を、いつまでも見ていたあの時の瞳だ。
切なげな、憂いを含んだ瞳。
「…… 愛してる」
そして唇を何度も優しく啄ばみながら、また「愛してる」と囁いてくれた。
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