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 ―― 愛執(35)

 ゆっくりと下衣が脱がされて、窮屈だったところから解放されたそこに父さんは指を絡める。 「…… あ……ッ」  直接触れられて、また先端にじわりと滲むものを感じた。  それを見られるのが恥ずかしくて、隠そうと伸ばした手を、父さんの手が捕らえて口づけを落とす。 「何も考えずに、快楽だけを受け取ればいい」  その声が耳に届いただけで、身体の力が抜けていく。 「…… んぁ…… あ…… ぁ、」  僕は目を閉じて、その感覚だけを追っていた。  自分で触ることは今までもあったけど、中心に集まる熱が熱くて、身体の奥で疼くような…… こんな感覚は初めてだった。  父さんの指が動くたびに、先走りで濡れそぼった半身から粘着質な音が鳴る。 「ぁ、ん…… あ、……っ」  突然、ぬるりと熱い感触に包み込まれて目を開けると、父さんが僕の半身を口に含み頭を上下させていた。  熱を纏った舌が蠢くように絡み付く。 初めて与えられる刺激に、今までに感じた事のないほどの快感が身体中の血を滾らせる。 「ん、ぁ…… で、ちゃう、父さ……っ」  すぐにでも達しそうで、その行為をやめてほしくて伸ばした手に、父さんがあやすように指を絡めた。  呼吸が荒くなって、下肢が震えだす。  その瞬間、頭の中が白く染まり、僕は父さんの咥内で果ててしまった。  絶頂の余韻に身体を委ねて遠くなりそうな意識は、父さんに膝裏を押し上げられて、現実に引き戻された。 「…… ひっ、ぁ!?」  後孔に触れる父さんの指に、恐怖で身体が震える。  さっき僕がキャビネットの上に置いておいた救急箱の中から、いつの間にか取り出したローションをたっぷりと纏わせた指に入り口をつつかれた。  そこにまだ残る痛みに、花火大会の出来事が蘇ってくる。 「い、嫌っ…!」  慌てて身体を捩り反転して、四つん這いの格好で、父さんの下から這い出ようとしたけれど、すぐに足首を掴まれて引き戻される。 「や…… イヤ、怖い…… !」 「伊織、この痛みも、快楽も、私が与えた事だけを、身体に覚えさせればいい」  背中に体重をかけて、僕の動きを封じて、父さんはうなじに唇を押し付けた。  熱くて濡れた舌先が宥めるようにうなじを這うと、恐怖と快楽が同時に僕を支配した。

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