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 ―― 愛執(36)

 身体の中に侵入してくる異物感と恐怖は、 「力を抜きなさい」  低い声で囁かれて、背中に熱い舌の温度を感じて、浅く長い息を吐く事でやり過ごせた。 「…… いい子だ」  そう言われる事が嬉しかった。  僕の後ろからは水音が響き始めて、そこから溢れる液体に肌が濡れていくのを感じた。  圧迫感が増して、指が増やされたのが分かる。  そこに触れているのは、父さんの指。  怖い…… 痛い…… だけど……、思い出したくない記憶は薄らいでいく気がした。  後ろの指を動かしながら、もう片方の手で胸の尖りを優しく愛撫され、半開きになったままの唇からは、自分の声とは思えないような甘い声が出てしまう。  身体の中で蠢く指の異物感も、徐々に消えていく。  後ろから聞こえてくる湿った音が激しくなって、体内で温められた液体が内股を伝い落ちる。  父さんの指が中でぐるりと回って、押さえるように擦られて、その刺激に身体が大きく跳ねた。 「――んあ、ああ……っ」  思わず上げてしまう高い嬌声に、自分でも驚いてしまう。  同じ場所を何度も何度も刺激されて、四つん這いで支えていた腕から力が抜けて、頭を床に擦り付けた。 「…… や、ぁ…… ふっ、あぁ」  気持ち良すぎて、開きっぱなしの唇から声が漏れてしまうのが恥ずかしいと思う事も忘れていた。 「気持ちいいか?伊織」  その言葉に僕は喘ぎながら、何度も頷いた。 「ここもまた、こんなに濡れている」 「…… あっ…… ぁ…… やぁ……ぁ」  いつの間にかまた形を変えて先端から雫を零し続ける僕の半身を、父さんの指にゆるゆると扱かれて、後ろと前の両方から与えられる刺激に、気が狂いそう。 「そうだ伊織、そうやって私に与えられる快楽を、身体に覚えさせればいい」  そう言いながら、父さんは僕の腰を高く上げて引き寄せる。 「―― あっ、」  後ろに押し付けられる熱い塊に、また身体が強張った。  怖い…… やっぱり怖い。  前へ逃げようとする身体を引き戻され、背中にのしかかってくる重みに、また恐怖が蘇ってしまう。 「い、イヤだ、父さん…… お願…… っん……」  言葉は最後まで言えずに、背後から顎を捕らえられて肩越しに唇を塞がれた。

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