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 ―― 愛執(38)

「あ…… っ、やぁ…… あ……」  角度を変えて僕の感じる場所を狙うように何度も突かれて、太股が痙攣するように震える。 「…… はぁ…… っ、あぁ、も…… 壊れる……」  気が変になりそうなくらい、感じ過ぎて、身体の中が熱くて、このまま壊れてしまいそう。  それが怖くて、手を伸ばして必死に父さんの首にしがみ付いた。 「伊織……」  と、名前を呼ばれて、父さんの肩に埋めていた顔を上げると、唇を奪われる。 「…… ん…… ふ…… っ…… ぅ……っ」  早くなる律動に身体は強く揺さぶられて、塞がれた唇の隙間から、くぐもった声を漏らし続けていた。  突かれるたびに上にずれる身体を父さんが引き戻し、強く抱きしめて、僕の耳元に唇を寄せる。  ぴったりとくっついた肌と肌の間で僕の半身は擦られて、とくとくと脈打ち、また限界が近くなっている。  耳に感じる父さんの熱の籠った息遣いも、段々荒くなってきていた。 「…… 伊織、一緒に……」  そう言って、父さんは上体を起こして、僕の足を肩にかけると、膝立ちで上から激しく突いてくる。 「ん、ああっ、あっ、ッ、ん」  律動に揺さぶられながら見上げると、僕を映し出す切ない瞳と視線が絡む。 「愛してる……」  低く落とされた声は、甘さを含んでいて、僕の胸を熱くした。  見つめ合いながら、父さんは一層激しく腰を打ち付ける。 感じるところを突かれるたびに、僕の肉襞は蠢いて父さんを締め付けた。 そうして二人の体温が一緒に上昇していくのが嬉しい。  だけど……  父さんの瞳に映っているのは、確かに僕なんだけど……。 でも、本当に見ているのは、きっと……。 「――あっ……、もう…… 父さ……っ、」  目の前が白んで、身体が大きく震えて、自分の腹に熱い飛沫を放つのとほぼ同時に身体の中にも熱が広がるのを感じた。  ポタリと、上から落ちてきた汗が僕の頬を濡らす。  肩で息をしながら父さんを見上げると、それは汗なんかじゃなくて…… 涙だ…… って、確かに思ったような気がする。  だけど、優しいキスをもらいながら、遠のいていく意識と共に、それがどっちだったかなんて事も記憶の隅に追いやっていた。  ―― 泣かないでよ。  愛するものに心が囚われて、それから離れることはそう簡単に出来ないって、子供の僕でも分かってる。  僕を母さんの代わりに抱いた事を、そんなに責めないで。  僕も、ずっと父さんと一緒にいたいから、僕も父さんを愛しているから。  父さんに抱かれて、僕は嬉しかった。  こうしてひとつに溶け合っている間だけは、僕は父さんが一番愛している人になれるんだ。  だから、その涙の意味は、忘れるから。  その代わり、僕を手放さないで。  僕を実の父親のところに行かせたりなんてしないで。  その手で捕まえていて。  ―― その日僕は、勉強机の一番上の引き出しに鍵をかけた。

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