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―― 偽り(13)
「……ねえ、僕どこか可笑しなとこあるかな」
「は? なんで?」
結局、始業のチャイムがなる頃に、担任の先生とほぼ同時に教室に入ってきた、隣の席の彼に話しかけることが出来たのは、始業式もHRも終わり、鞄を持って教室を出ようとしている時だった。
「……なんか……今日、みんな変なんだ」
「変って?……あ、俺ちょっとトイレに行きたいんだけど……」
そう言って、彼は下駄箱へ向かっていたのを、方向転換して歩いていく。
「あ、僕も行く」
後からついて行く僕を彼は肩越しにチラッと振り返り、「そ?」と言って、またスタスタと歩き出した。
―― そう、みんな変なんだ。 今、僕の目の前を歩いている彼だって。
無視をされてるわけでもない。何か嫌なことをされた訳でもない。だけど何故だか分からないけど、どこかよそよそしい。何か理由があるんなら少しでも早く知りたい。友達の多い彼なら何か知っているかもしれない。
トイレで用を足している間も後ろで待っている僕に、「伊織、しないのについて来たわけ?」と、彼は怪訝そうな顔をした。
「うん……。みんなの様子が変だから、僕が何かしたんなら、教えてほしくて……」
「……」
僕が今言った言葉も、どこか変なんだろうか。二人きりのトイレの中で、どうしてだか重い空気が流れた。
手を洗っている彼の俯いた顔が鏡に映っていて、その後ろに僕が立っている。僕は鏡の中の彼に向かって、もう一度聞いてみた。
「それとも……僕、何かしたのかな。みんなの迷惑になるようなこと」
彼は蛇口の水を止めると、鏡の中で彼の後ろに映っている僕にやっと視線を合わせた。
「……別にそういうわけじゃ……」
そう言いかけて、また黙り込み、鏡の中で合っていた目も逸らしてしまう。
――そういうわけじゃなくて……違う理由があるってこと……?
「教えて……くれないの?」
「あ……あのな……別にお前が悪いとかそういう事じゃなくて」
彼は漸くこちらを振り向いてくれたけれど、やっぱり僕と目は合わせてくれなくて。それでも、「あのさ……」と、俯き加減で視線を逸らしたまま、ポツリと呟くように話し始めた。
「伊織、あの祭りの夜、神社で何してたんだ?」
(――祭りの夜……、神社で……)
思いがけなく言われた言葉に、あの夜の事が思い出されて身体が強張っていく。勝手に身体が震えるのを止めたくて、唇をきつく噛み締めた。
「…… やっぱり…… ホントなんだ……」
震える僕を見て、彼はそう言った。同情しているような、憐れんでいるような、そんな感じの声で。
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