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―― 偽り(19)
何も見えない分感覚が研ぎ澄まされるのか、余計に臭いや形がリアルに唇に伝わってくる気がする。
父さんと二人きりで過ごした夏休みを思い出しながら、僕は行為に集中していく。男の根元を握り込み、軽く扱きながら頭を上下させると、咥内で男のモノが形を変えていくのが分かる。
「……っ」
微かな吐息を零す男の声が耳に届いて、感じているのが伝わってきた。
「……な、んだお前、こないだは、あんなに下手くそだったのに……」
男が僕の前髪に指を挿し入れて掻き上げる。
「ふ……っ……その顔もエロくていいぞ。その調子で舌も使ってみろよ」
男のモノを根元まで咥えてから、先端へとじゅるっと音を立てながら頭を動かして、一旦唇を離す。今度は根元から舌を這わせていくと、浮き出た血管の感触が、ダイレクトに舌に伝わってくる。裏筋を丹念に舐めて、カリの輪郭をなぞるように刺激すると、さっきよりも長くて熱の篭った吐息が僕の髪にかかった。
「……は……っ……」
双珠を掌で柔らかく転がしながら、舌で円を描くように先端を濡らして、もう一度喉奥まで飲み込んでいく。
髪を掴む男の力が強くなった。
僕は、咥内の塊に舌を絡めて吸い上げながら頭を上下させた。硬く張り詰めた塊が咥内で脈打って、また形を変える。口の中が男のモノで一杯だけど、もっと喉に当たる程、奥まで咥えていく。
「……ん……ッ、……ふ……ッ」
口淫で部屋に響く水音と苦しさに漏らしてしまう自分の声に、自分自身が熱くなっていくのを感じていた。
「……っお前……ッく……」
頭の上から苦しげな声が落ちてきた次の瞬間、咥内で男のモノがドクンと大きく震えて、熱い液体が放たれた。
最初は細く舌の上に広がっていく。またドクンと震えて勢いよく溢れ出した液体を咥内で味わってから、少しずつ喉に送り込んでいく。
男が完全に果てて、僕の髪を掴む指先から力が抜けるのを待って、もう一度男のモノ喉奥まで咥えてから残りを吸い上げる。
目を閉じてさえいれば、僕は感じることが出来るかもしれない。
逢えない寂しさも紛れた気がする。それどころか、僕の身体は次の行為で得られる快感を知っている。
父さんじゃなくても、僕を満たしてくれるのなら悪魔に抱かれてもいいなんて、浅はかな考えが頭を過った。
あの人の代わりなんて、この世に存在するはずもないのに。
「伊織、お前最高だな」
男の声が僕の思考を遮った。
ああ…… いっそ耳も塞いでくれたらいいのに。
不意に身体を押されて、ベッドに仰向けに倒れた僕に男が体重をかけてきた。
「やっぱり顔隠してたら、勿体ねぇな」
「あっ!」
目を覆っていた黒い布が外されて、視界に男の顔が飛び込んでくる。
「い、嫌だ!」
咄嗟に僕は両腕を交差させて顔を隠した。
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