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―― 偽り(20)
「何だよ、撮っても今は売らねえって言っただろ?」
(違う……)
男が、顔を覆った僕の腕を掴んで剥がそうとするのを、僕は必死に拒んだ。
「あぁー、もう分かったよ。顔がもし映ってても絶対修正かけるから」
僕はその言葉に顔を覆った腕の隙間から、男を見上げた。
「……本当?」
「ああ、本当だ。」
(――でも違うんだ……そういう事じゃない)
力が弛んだ腕を、男がそっと顔の上から取り払う。
「顔を見てやりたいだけだよ」
この男でも、こんな優しい顔ができるんだって、思うくらいの笑みを僕に向けてくる。
(――でも違うんだ。僕が嫌なのは顔を映される事なんかじゃなくて……)
「修正かけるなら、いいんだろ?」
男の顔が近づいてきて、僕はゆっくりと目を閉じた。
(アンタの顔を見ながら抱かれるのが、イヤなんだよ)
瞼の裏は真っ暗で、そこに恋しくて、逢いたい人の顔を思い浮かべることができる。
男は唇を押し付けるようなキスをする。煙草のヤニの味がする。その臭いにむせそうになりながら、僕は彼のキスに応えた。
父さんの煙草の味とは全然違う。
キスは嫌だ。いくら目を閉じても、臭いと味で身体の熱が冷めそうになる。
唇を僅かに離して、角度を変えようとする男の首に抱きついて、肩に顔を埋めた。
「……な、なんだよ?」
(嫌なんだ、アンタのキスが)
「早く抱いて」
その言葉が合図になったかのように、男は肌蹴た僕のシャツを剥ぎ取って、露わになった肌にむしゃぶりつく。
強すぎる力で首筋を吸い、舌を這わせて胸に辿り着くと、片方を吸いながら片方を指で摘まむ。
「……痛っ」
男の愛撫は乱暴で、快感には程遠くて痛みしか残らない。
僕は、身体の上で忙しなく動く男の身体を押し退けて起き上がった。
「……今度は、なんだ?」
(下手過ぎて感じない)
心の声を隠して、僕は無言で自分の制服のズボンと肌着を一緒に脱ぎ捨てた。
「おい?」
驚いた顔の男をそっと押し倒して、その身体の上に跨った。
男の身体の上で目を閉じて、僕は自分の指をしゃぶりながら、自身に指を絡めてやんわりと扱いていく。瞼の裏に、父さんとの情事を思い描きながら。
「……ん」
徐々に半身が硬くなっていき、身体の奥に情欲の火が灯る。
自分の指に舌を絡めて、音を立てて吸うと、父さんに口淫されている自分の姿が瞼の裏に浮かび上がる。
「……はっ……ぁ……」
柔らかかった半身はすっかり勃ち上がり、身体中の血液がそこへ流れていくのと同時に感じる後孔の疼き。
「……伊織……」
僕の名を呼ぶ男の声も、父さんの声に置き換えて、咥内から唾液に濡れた指を引き抜いて、そのまま疼く場所へ手を伸ばした。
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