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 ―― 偽り(21)

 夏の間、何度も父さんを受け入れたそこは、僕の指を難なく呑み込んでいく。父さんの繊細な指の動きを思い出せば、それだけで僕の中は熱を持ち指に纏わり付いてくる。 「……あ……っ……ぁ……」  熱い吐息と声が自然に唇から零れ落ちる。目の前にいるのが、顔を見るのも嫌な男だということも忘れて。  手の中の自身から、熱い雫が溢れ出て、上下させる指を濡らしていく。クチュクチュと鳴り響く水音に煽られて、身体の中へもっと深く指を挿れて腰を揺らした。  父さんが突然家を出てから寂しさに狂いそうだったのは、心だけじゃなかったんだ。  そこを触ればもっと熱くなれることを僕は知っている。どんな風にすれば、持て余した熱を解放できるのか知っている。父さんの指を、腕を、胸を、熱い猛りを思い浮かべれば、それが欲しくて堪らなくなっていく。 「……あ……っ、ぁ……」  自身を扱く手の上から、大きな手で包まれるのを感じて、薄く目を開けてそこだけを見た。  男の手が僕の手を退けて、そのまま蜜に濡れた半身を扱き始める。僕は目を閉じて、その指の動きだけを追いかけて、違う人の指の形を思い出す。 「……あ、……んん……ぁッ……」  もっと先の快楽を求めて、僕は後孔を慰めていた自分の指を引き抜いて、代わりに男の猛りを掴みそこに宛がった。その感触は父さんのものとは違うけれど、目を閉じて思い出せばいい。 ただそれだけで、あの熱さを感じることができた。  ゆっくりと腰を落として、男の猛りを呑み込んでいく。 「―― ん……あぁ……っ」  自分の身体の重みで、深い処まで咥え込むと、腰から背中をゾクゾクとした痺れが走る。 「……ッ」  男が小さく呻くような声を吐く。お互いの熱い息づかいが荒くなっていく。 (ああ、すごくいい)  自分の好きなように腰を揺らして、好きな人の顔を思い浮かべると、中心がまた熱くなっていく。  こんなに高揚すると思っていなかった。  愛もない、普通なら嫌悪する相手とでも、こんなになるなんて。  僕はとうの昔に狂っていたのかもしれない。

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