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―― 偽り(22)
「……ッ……お前ん中、すげえ……」
「――ッ……あ……っ」
好きなように動いていた僕の腰を、突然男が力強く掴んで下から突き上げる。
「こないだと、全然違う……ッ……」
「――やッ……あっ、あ……っ」
身体を揺さぶられて、ガクガクと頭が揺れる。
もっと激しく突いて、もっとめちゃめちゃにして欲しい。 その方が、気が紛れる。身体も、心も、もっと熱くなったら、寂しさを忘れることが出来るから。
男は上半身を起こして、僕の身体を抱きしめながらベッドに押し倒した。背中がベッドに沈んで、男に両足を抱え上げられて、身体の奥深く穿たれる。
ベッドが激しく軋む音と、僕の声と、肌のぶつかる音と、水音が、暗くて冷たい部屋の空間に混ざり合う。
「あ……は……ッ……も……っと……」
「――あぁっ? 何だって?」
男は、腰を打ち付けながら身体を折り曲げて、僕の口元に耳を当てる。
「……もっと、ーーっ、激しくして……っ」
荒い息を吐きながら男の耳元に訴えると、男は「わ、かってる!」と、怒鳴るように言って、僕の希望に応えてくれた。
優しい言葉も要らない。ただ、目を閉じてその快楽だけを貪ることが出来れば。今の僕には、それくらいがちょうどいい。
瞼の裏に、逢いたい人の表情を思い浮かべる。僕に向ける切なげな眼差しは、僕だけを見ているんじゃないって知ってる。でもその表情を思い浮かべただけで、僕は絶頂への階段を駆け昇っていける。
「伊織、俺の名前を呼べよ」
あの頃、男は身体を重ねるたびに、いつもそう言っていた。
名前……。あの頃の僕は、男のことを名前で呼んでいたのかな。男の名前はなんて言ったっけ。憶えていないんだ。 僕が男のことをどう呼んでいたのかなんて。
名前なんて大したことじゃない。愛なんて感じない。ただ、誰かの肌の温もりさえあればいい。
どうしようもなく寂しい心と身体を埋めてくれるのなら、それが誰でも構わなかった。
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