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―― 偽り(27)
「おーい何やってんだ? チャイム鳴ったぞー。席につけ」
いつの間に始業のチャイムが鳴ったのか、先生が教室に入ってきて、皆バタバタと自分の席に戻っていく。
結局僕は、菜摘ちゃんに何も言う事が出来なかった。
どこでボタンを掛け違えたのか。 きっとどこかで、何かを間違ったのだけれど。あの祭りの夜から、僕の周りは少しずつ何かが変わってしまった。
釈然としない気持ちと裏腹に、何となくこれで良いんだって気持ちが、胸の中で入り混じっていた。
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今日は夏休み開けの確認テストの日。机の上に裏返しで置いた問題用紙を、開始の合図があっても、表に向ける気力も無くなっていた。
教室内は静かで、シャーペンの走る音しか聞こえない。隣の席の友達も、何事もなかったかのように解答用紙に書き込んでいる。
僕だけが皆から離れたところで、その風景を見ているような、そんな気分になっていた。
休み時間になっても、誰も僕に話しかけてきたりしない。仲が良いと思っていた隣の席の彼も、休み時間になると離れた席の友達の所へ行ってしまう。
朝会った時と、明らかに態度が変わってきていた。少しずつ少しずつ、皆僕から離れていく。そして僕は、今更気付く。
あんなに沢山いると思っていた友達の中で、誰一人、本当の事を言える相手がいないなんて。本心を相談できる友達なんて、ずっと前からいなかったんじゃないかって。
でもそれはきっと、当たり前の事なんだ。
足並みの揃わないものは、いつだって弾かれてしまう。ずっと前から、同じじゃないか。
僕はもう皆と一緒にいる事は出来ないんだと思う。
だって僕は汚れてしまっている。 今日も、あの男に会う事を期待している。 あの快楽を、もう一度味わいたいと思ってる。
あの祭りの夜、あの男に与えられた屈辱を、せっかく父さんに忘れさせてもらったのに。
父さんの事を好きなはずなのに、逢えないだけで、憎いはずのあの男に抱かれても、喜んでしまうなんて。
それだけで、皆の輪の中に入ることなんて、出来ないのは当たり前のことだった。
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