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 ―― 偽り(30)

 それから僕は、毎日のように男の部屋に入り浸っていた。  朝は一応学校に行く。休んで学校から家に連絡が入るのを避ける為に。ただそれだけの理由で。  授業を受ける時もあるけど、保健室で過ごす時も多くなった。最近食事もろく摂らないで、不摂生ばかりしている僕は、顔色も悪いせいか、早退するのも意外に簡単だった。  男は、僕が学校の近くまで来るのはやめて欲しいと言ったら、「来たい時に来ればいい」と言って、僕に合鍵をくれた。  好きな時間に行けば良いわけだけど、男は大抵、昼過ぎまで部屋で寝ている。夜遅い時間は、男の方が都合が悪いらしい。  鍵を差し込んで回すと、ガチャンと派手な音が廊下に響く。ノブを引いて鉄のドアを開けると、煙草と性の臭いが鼻をつく暗い部屋。  靴でいっぱいの玄関に、見覚えのない女物の靴が脱ぎ捨てるように置いてある。それを見ても、何とも思わないことが、僕の男に対する気持ちの表れだった。  足の踏み場も無いほどに、散らかしっ放しの床を、歩いていくと、女物の服や下着が落ちているのを見つける。  部屋の中央に置かれたベッドには、真っ裸の女と男が、布団も掛けずに眠っていた。女は若い。 高校生くらいだろうか。金髪に近いくらいに脱色した髪が乱れて、シーツに広がっていて、 (……なんかライオンみたい)と、心の中で呟いた。 「―― な、何? アンタ誰よ?」  僕の心の声が聞こえちゃったのかな。 目を覚ました女が、僕を驚いたように見上げる。 「……んだよ、煩いな……」  隣に寝ていた男も、女の声で煩そうに、布団の中で身じろいでいる。 「――あっ、伊織。来てたのか」  僕の存在に気付いてやっと目が覚めたみたいで、男は上体を起こした。 「ちょっと、この子誰なの? 可愛い! アンタの子供?」 「子供なわけあるかよ! 俺、いったい何歳だよ?」  言いながら男は起き上がって、床に散らばっていた女の服を集めてベッドに投げた。 「いつまで子供ん前で、そんな恰好してんだよ。早く服着ろよ」  男の言葉に、女は、 「何よ、やっぱり子供なんじゃん」と言いながら、のそのそと身支度を始めた。 「昨夜は楽しかったよ。ほら、早く行け」 「もー、何よ! もう遊んであげないからね! おじさん!」  玄関でまだ文句を言ってる女を、男はドアを開けて外に押し出した。 「悪かったな。お前、来ると思わなかったから」  男はベッドに戻ってきて、僕の身体を押し倒して、顔を近づけてくる。 「……汚い」  僕は、その顔を両手で押しやって顔を背けた。

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