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 —— 偽り(31)

「……っ、んだよ?」 「……におう」  さっきの女子高生のにおい。 「ちぇ、分かったよ」  男は舌打ちをしながらも、諦めたように身体を起こして、素直にベッドから降りる。 「それから、シーツも変えてよね」 「——あーもう、やればいいんでしょ、やれば」  ブツブツ文句を言いながら、それでも男は新しいシーツと交換する。 「はい、できましたよ、王子様。じゃ、私はシャワーでも浴びて身を清めましょうかね」  皮肉っぽく言って、剥ぎ取ったシーツを大雑把に丸めて、洗面所へ向かう男の背中に、 「歯も磨いてきてよ」と、付け足すように言うと、男は盛大に溜息を吐いていた。  僕は、シーツを変えたばかりのベッドに仰向けに寝転がる。  男は、相変わらず口も悪いし乱暴だけど、僕の言うことは、文句を言いながらでも聞いてくれる。 ――『……お前、最初に会った時はフェラも下手だったし、後ろだって全然良くなくて、結局先っぽしか入んなかったのに、夏休みの間に誰かとヤったんか?』  いつだったか、男が聞いてきたことがある。 『……何言ってんの。僕の初めての相手はアンタじゃん』  そんなの、嘘だけど。 『アンタが僕に全部教えてくれたんでしょ? 僕はアンタしか知らないよ』  そう言っただけで男は嬉しそうな顔をして、僕の身体を優しく抱いた。  —— 大人って、意外と単純。 「伊織、腹減ってねえ? なんか食う? 焼きそばなら作れるからよ?」  バスルームから出てきた男は、部屋着のズボンだけ穿いた格好で、冷蔵庫の中を覗き込みながら、僕に聞いてくる。 「……いらない」  焼きそばの味のするキスなんてしたくない。  冷蔵庫の扉をパタンと閉めて振り返った男が、「俺、腹減ってんだけ……」と、言いかけた言葉を息を呑んで止めた。  僕が立ち上がって制服のシャツのボタンを外していたからだと思う。 「どうしたの? やらないの?」  シャツを脱いで床に落とし、ベルトを緩めているところに男が近づいてきて、顎を捕えられた途端唇が重なる。 「……ん……」  侵入してきた舌は、仄かにミントの味がする。  男に応えるように舌を絡めて、僕は目を閉じる。  男の手が僕の背中を抱きしめて、僕も男の背中にしがみ付く。  —— まるで、恋人同士みたいに。

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