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—— 偽り(32)
ベッドの軋む音が、不規則に鳴る。
「……あ、っ、んん、それ、やめて……」
僕はうつ伏せの状態で、後ろから腰を打ち付ける男を肩越しに見上げた。
「……はッ! お前ん中に俺のが出たり挿ったりしてるとこ撮ってんだよ。後で見せてやるな」
「顔は、や……だって、言って……んのに……」
ビデオカメラのレンズが、舐めるように腰から、背中、顔へと移動してくる。
男はレンズ越しに、そうやって僕の身体を眺めるのが好きだった。
「ははッ、お前だって、こうやって撮られながらヤるのが好きなくせに。ほらっ……、また俺のをギュウギュウ締め付けてくる……ッ」
男は腰を打ち付けながら、カメラを持っていない方の手で、僕の腰から背中を撫でる。
「……ほら、今、触ってるとこを撮ってるぞ?」
背中を這い上がってきた手が、襟足を掻き分けて、指先がうなじを擽る。
「……あっ、あ、イヤッ……」
レンズを向けられているところが何故か熱く感じて、そこから身体中に熱が広がっていく。
たくさんの目に晒されてるような、そんな錯覚で羞恥を覚えて熱くなっているのかもしれない。
「ははっ、お前もしかして、誰かに見られながらヤるのが好きなんじゃないの?」
「——ッそんなこと……っあ……」
「くそッ、この締まり具合、たまんねっ」
男は、持っていたカメラを横に置くと、後ろから覆い被さるようにして、腰を激しく打ち付ける。髪を掴まれて、後ろを降り向かされて、律動しながら唇を奪われる。
「……ッふ……んん…… 」
無理な体勢で唇を塞がれて、息苦しくて。でも、与えられる快感は、確かに僕の身体を支配していく。
目を閉じて身を委ねていれば、ここがどこで、相手が誰なのかなんて関係なくなる。
素直に気持ちいいことだけ感じていれば、父さんが教えてくれた深い快楽の海に、また溺れることができるんだ。
*
「ねえ、撮ったビデオ、売るつもりないの?」
「んぁ?」
身体を起こして、煙草を燻らせていた男は、煙を吐きながら返事をする。
周りにいる人間のことなんて、全然気にせずに煙草を吸うから、煙が全部こちらに流れてきて、その煙に僕は小さく咳込んだ。
「今は売らねえって、言っただろ?」
面倒臭そうに言いながら、男は横になっている僕の頭の上で手を動かして煙を払う。それから吸っていた煙草を、灰皿にもみ消して、顔を近づけて僕の唇を塞ぐ。
(…… 煙草臭い……)
でも僕はその匂いにも、少し慣れてきた気がしていた。
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