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 ―― 偽り(36)

 二人の刑事にジリジリと詰め寄られて、背中が後ろのドアに付く。  逃げ場がなくなり手の中の鍵を握りしめたその時、後ろでガチャンと鍵の開く大きな音が響いた。僕の背中を押すように後ろのドアが僅かに開いて、中から男の面倒臭さそうな声がした。 「朝っぱらから、煩い」 (――なんで出て来るんだ)  心の中でそう思いながら振り向くと、男はこんなに朝早いのに、黒のスラックスに控えめな光沢のグレーのシャツを着て、髪も綺麗に整えている。 「何処かに出掛けるの?」  思わずそう訊いてしまう程、僕は男がこんなに身なりを整えている姿を見たことがなかった。 「……ああ、そうだ。 だからお前は早く学校へ行け」  男はそう言って僕の背中を押して、目の前に立っている二人の刑事の間から僕だけを抜けさせようとした。 「待ちなさい。そういう訳にもいかないんだ」  そうはさせまいと刑事達はすかさず間を塞いで、行く手は阻まれてしまう。 「んだよ、あんた達」  男は凄んで睨みつけているけど、刑事達は全く動じない。 「ちょっとお話を伺いたいだけなんですがね」 「何……? ガサ状あんの?」 「勿論です」  そんなやり取りをして、刑事は男にガサ状と呼んだ紙を見せていた。 「分かったけど、こいつは関係ないんだから帰していいだろ」 「いや、この件とは別だとしても、この子は保護させてもらう」  それでも男は食い下がってくれたけど、結局僕は男の部屋に刑事と一緒に入らされた。  刑事が何処かに連絡すると、すぐに10人くらいの男達が入ってきて、部屋の中を隈なく何かを調べていた。  男は椅子に座って、ただそれを眺めていたけれど、テーブルの上の灰皿には煙草の吸殻が溢れていた。 「吸いすぎだよ」  と、僕が小声で言うと、 「いいんだよ、暫く吸えなくなるんだし。吸い貯め」  と言って、男はニヤリと笑う。  まるで、こうなる事を事前に知っていたような態度だった。 「アンタ、逮捕されるんだ?」 「まあ、そうなるだろうな。 お前ともお別れだな」  段ボールの箱の中に、色んな物が詰め込まれていく。  パソコンや、外付けHDDや、ビデオカメラや、手帳や書類のようなもの。あの中にきっと僕の映像もあるんだ。 「学校と家にも連絡したから、近くの署まで一緒に来てもらうね」  作業途中だった刑事が、僕に話し掛けてきた。 「え…… ?」  ―― 家にも連絡したんだ。  家にはタキさんしかいない。 今日のところは、父さんには伝わらないだろうけど……。  これから、どうなるんだろう。

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