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 ―― 偽り(37)

「もう一度訊くけど、君はこの男とどういう関係なんだい?」  刑事はさっきと同じ質問を、男の前でもう一度確認するかのように訊いてきた。 「だから……」  僕もさっき言った通りに、『友達』と言おうとしたところに、男がそれを遮るように口を挟んだ。 「俺がちょっとからかっただけだよ! こいつに訊いても何も出てこないっての」 「お前に訊いてない。俺はこの子に訊いてるんだ」  刑事の怒鳴り声に男は口を噤み、拗ねたようにそっぽを向く。 「後でゆっくり訊かせてもらうけど、この男に何かされたんなら正直に言って良いんだよ」  ―― 僕はこの男に神社で襲われて、学校にまで来て脅迫されて、部屋に連れ込まれてセックスを強要され、その行為をビデオに撮られました。 「何も……何もされてない……」  ―― 僕が言う事を聞かないと、そのビデオを世間にばら撒くか、父を脅迫して金を出させる為に使うと言われました。  そう言えば良いだけなのに。 「不良に絡まれているところを、この人に助けてもらったんだ。 だから…… 僕が勝手に懐いてここに遊びに来ていただけだよ!」  なんでだろう。  どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。 本当のことを言おうとすると胸が苦しくなってしまうんだ。 「……分かった、分かった。言い方がまずかったかな? ごめんね。まあ後で署の方でゆっくり訊くから」  刑事はそう言って、僕の頭の上にポンっと手を載せて、また作業に戻っていった。 「……まったく……お前、何泣いてんだよ」  男が小声で話し掛けてくる。  なんで泣いてるのか僕にだって分からない。 「さっきの嘘は、有難かったけどな」  そう言って、男は笑った。 「心配しなくても、お前の映像なんか無いから」 「え?」 「だから、無いんだよ。最初からビデオなんて撮っちゃいないって。だから心配すんな。 そんな証拠残ってたら俺が困るんだよ」  嘘だ……。だって僕が逃げたら、あの映像を売るって言ってたじゃない。  でも確かに……撮った映像を『後で観せてやるな』と、言っていたけど、実際にそれを観せてもらったことはない。 「……騙したの? 僕のこと」  そうまでして、ただ欲を満たしたかったの? 「……そうだ。だからお前は、知らぬ存ぜぬで通せばいいんだからな」  僕に本当のことを警察に話されたら困るから、そんな事を言ってるの? 「何も知らないお坊ちゃんをからかって遊んだ。それだけだよ」  男は、そう言って薄ら笑いを浮かべて、また煙草に火を点けた。  男が僕に最後に言った言葉は確か…… 『……あんま他人を信じるなよ』

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