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 ―― 偽り(42)

 双丘を割り開き、熱い舌が窪みへと下りていく。  入口をなぞるように舌先で擽られて、全身が粟立っていく。 「……あぁ……父さんっ」  唾液を纏わせた舌が蠢いて、濡れた音音を立たせる。  僕はシーツに額を擦り付けて、もう、すぐにでも達してしまいそうな感覚を堪えた。  早く父さんので身体の中をいっぱいにして欲しい。 それを想像するだけで、僕の中は卑しくひくついた。  腰を高く引き上げられて、熱い塊を後孔に宛がわれただけなのに、快感が全身を駆け巡る。  入口を押し開き、挿ってくる形を感じると、ドクンと腰が脈打った。 「ああっ、ああ……」  熱い飛沫がパタパタとシーツを濡らしてしまうのを止めることが出来なくて、恥ずかしさにシーツの濡れた部分をを手で覆い隠そうとした。 「……ふっ」と、父さんの笑い声が熱い吐息と共に耳にかかる。  父さんは汚れた僕の手を取ると、舌で白濁を舐め取りながら、チラッと僕の顔に視線を送り、口角を上げた。 「挿れただけで達っしてしまうなんて、男に犯された時の事を思い出すと、そんなに感じるのか」  その言葉に僕は悲鳴のような声をあげていた。 「……違う……っ、父さんだから、父さんに抱かれているから、こんなに感じるんだ。他の男の事なんて……っう」  繋がったまま身体を反転させられて、言葉が途中で途切れてしまう。 「では何故、他の男に抱かれた?」  鋭い眼差しで、見据えられる。 「父さんが急にいなくなって、寂しくて……。捨てられてしまったんじゃないかと不安で……だから……っ」  父さんがいなくなってしまった日の朝を思い出すと、涙が溢れた。 「僕は……僕は、あの男に抱かれながら、父さんのことを想っていた」  あの男の煙草臭いキスが嫌じゃなくなったのは、慣らされてしまったせい。  身体を繋げる行為が恋人同士のように思えたのも、僕を抱き締める腕が優しいと思えたのも、あの男が他の誰かと過ごすことが悲しいと思ったのも、全部父さんと男をすり替えて考えていたから。 「伊織……」  汗で額に張り付いた前髪を、繊細な指先がそっと掻き分けてくれる。  目尻から零れた涙を舌で掬って、唇を柔らかく押し当ててくれる。 「綺麗だ……伊織」  ゆっくりと、律動が始まる。 「そうやって愛に飢えているお前は美しい」 「……あっ……あ……」  父さんの言葉の意味が分からないまま、達したばかりの僕の中は敏感に反応して収縮を繰り返す。 「ん、っぅ……っ」  深いキスを交わしながら律動が加速して、お互いの乱れた吐息が重ねた唇の隙間から漏れ始める。 「ああ、伊織の中はとても熱くて、もっとと、私を欲してくれているのを感じるよ」  父さんは掌で、僕の脇腹を撫で上げながらそう言ってくれた。 「ああっ、ん……はっ、……あっ」  今、父さんと一緒に高みを目指していると確かに思える。 それは父さんも僕を愛してくれているからだと思いたい。

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