110 / 330

 ―― 背徳(7)

「い、た……」  歯が耳朶に食い込んで、痛みで噛まれた部分が痺れてる。 「――ッ、やめてってば……ッ」  凌の舌が首筋を履い、今度はうなじに歯を立てた。 「――っう」  噛まれた部分に血が滲んで肌の上を血液が細く伝うのが分かる。 凌はそれを舌で舐めとりながら笑う。 「本当に全然感じてないって言えるのか?」  凌の腕の中で身をよじって抵抗する僕のズボンのベルトを外し、前を寛げて中へ手を差し入れながら凌はまた耳元で低い声で囁く。 「ほら、やっぱり感じてるんじゃないか」  そう言って、凌は僕の中心を下着の上から握り込む。 「――っ」 「お前は今、俺に噛まれて体を触られて、それで感じてるんだよ」  そう言って凌は、そこを強めに擦り始める。 「今、お前を感じさせてんのは俺だ。よく覚えておけよ」  勝手に欲情して、独り善がりの愛撫で相手が気持ちよくなる訳ないのに。  そこが反応しているのは、ただ刺激されてそうなっているだけ。  これが父さに抱かれているんだと思えなければ、全然気持ちよくなれない。  凌は、僕の気持ちなんてお構いなしに、制服のズボンと下着をずらす。  そして便座の蓋の上に腰かけた凌に引っ張られて、僕は彼の膝の上に向き合って座らせた。  ずり下ろされたズボンは、片方の足にだけ引っかかった状態で、裾が床に付いてしまっていた。 (―― 嫌だな)と思いながら下を見ていると、凌に顎を掴まれ、強制的に上に向かされて噛み付くようにキスをされた。 「ちゃんと俺を見ていろよ。今からお前を犯すのは俺だからな」  そう言って、僕の腰を持ち上げて、後ろ孔へ凌は硬い熱を押し付けた。 (……早く終わらないかな)  自分の重みで凌の熱杭を身体の中に呑み込ませながら、頭の中では他のことを考えていた。 「……は、っ……っ」  静かなトイレに、凌の荒い息と肌のぶつかる音が響く。 「い、おりっ、俺を見ろ」  僕の腰を掴んで下から闇雲に突き上げながら、凌は何度も僕の名前を呼んで、自分の存在を確認させる。  そうされればされる程、身体の中も冷めていくようだった。  気が付けば、さっき硬くなっていた僕の半身もいつの間にか萎えている。  ネクタイで後ろ手に縛られて不安定な身体を揺さぶられながら、僕はこの行為が終わるのをただ待っているだけだった。

ともだちにシェアしよう!