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 ―― 背徳(12)

「へえ、学校全体が公認って訳か」  さすがに呆れたような声が返ってきたけれど、 「だけど、皆が知ってるからって、やっても良いって話じゃないだろう?」と、続けた声は真剣だった。  その後に、もし問題が起こった時、面倒臭いからな。 と、冗談めかして付け足したけど。  それはきっとこの先生のポーズなのだという気がしてきた。  そんな風に砕けた態度を見せて、生徒と目線を同じにしているという、見せかけ。 「問題なんて起きない。だって皆、僕との事を秘密にしておきたいんだから……」 「だけどな……」と言いかける先生の膝に、そっと手を置いた。 「お説教なら聞かないよ。……なんなら……」  先生と視線を絡ませながら、スラックスの内側の縫い目をなぞるように、付け根の方へゆっくりと指を滑らせていく。 「……なんなら、先生も試してみたらどうかな」 「……」  視線が絡んだまま、確かに危うい沈黙が流れていた。 「……悪いな」  だけど、僕の手を掴み、先生はその沈黙を容易く破った。 「……俺、女の方が好きだし」  別段、狼狽えることもなく、淡々とした態度でそう言って、またあの見透かすような眼差しで笑いかける。  その態度が、余計に気に入らない。 「……そう、良かった。僕もアンタとなんかごめんだし」  吐き捨てた台詞は、まるで負け惜しみみたいで自分にも嫌気がさした。  早くこの場から立ち去りたかった。 「……話、終わったんなら、帰ります」と、全然口を付けていないペットボトルを先生に突き返して、立ち上がった。 「―― あ、待てって!」  僕の腕を、先生はすかさず掴んで引き止める。 「そんな話をしたかったんじゃないんだ」  その言葉に、僕は返事の代わりに大げさに溜息をついた。 「まあ、座れって」  言いながら先生は立ち上がって、僕の肩を両手で軽く押す。  座るよう促され、僕はまたベンチへすとんと腰を降ろした。 「あのな、だから……君は速水くんと距離を置きたいと思っているんだろ?」  その言葉に、僕は逸らしたままだった視線を、思わず先生へ戻した。 「……朝は今までのように俺がなるべく同じ電車に乗るからいいとして…… 帰りなんだけどね」  僕が漸く目を合わせたからか、先生は満足そうに微笑んだ。  でも、その後に続いた言葉は、僕が思いもよらない内容だった。 「君、もしかして、絵を描くのが好きなんじゃないか?」

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