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 ―― 背徳(13)

「……絵?」  何のことを言ってるんだろう。  絵を描くのは嫌いじゃないけど、どうしてそんな話になるのか分からなかった。 「1年の時、芸術科目のコース選択は、美術だったよね」  それは、そう。でも、別に深く考えずに美術に決めた。 「美術の先生にね、美術室に残っていた君の絵を、見せてもらったんだよ」  何を描いたかも、あまり覚えていない。 1年の時も、進級できるギリギリの日数しか学校には行かなかったし。 「とても素直な絵だと思ったよ。 描くのが楽しいと言ってるのが伝わってきた」 「……そうですか。」  どうでもいい話にいい加減うんざりして、適当に返事をしてまた先生から目を逸らした。 (……早く帰りたい)  さっき濡れてしまった下着が気持ち悪い……。 だけど、上の空で他のことを考えていると、この鬱陶しい教師はまた顔を覗き込んでくる。 「どうだろう、絵を描くのが好きなら、美術部に入ってみたら」 「――は?」  部活なんて入りたいなんて思わない。 そんなの面倒臭いだけじゃないか。 「何の為に部活になんて、入らないといけないんですか。 訳分かんない」 「だからね、部活動していたら、速水くんと距離が置けるんじゃないかなと。 部活で新しい友達も出来るだろうし、良い考えだと思わないか?」  ……また友達か。  どうして皆、すぐに友達に結び付けたがるんだろう? 友達がいたら何か良い事でもあると思ってるんだろうか?  そんなこと、何も無いのに。  本気で相手のことを思う人間なんていやしない。それなのに、興味本位に関わってくる。干渉するだけ干渉して、他人に触れて欲しくないところまで土足で踏み込んでくる。  卒業して、新しい環境に慣れてしまえば、そのうちきっと忘れてしまう程度の関係なのに。  所詮、他人は他人。  最後に信じられるのは自分だけなのに。 友達なんて僕には必要ない。  僕が本当に欲しいのは、そんなものじゃないのに。 「必要ないです。凌のことは自分で何とかするし、もう構わないでください」 「え? あ、いや、ちょっと待てって」  もうこれ以上話す必要もないと立ち上がろうとした僕の腕を、先生はまた掴んで引き止める。 「なんでですか? 部活になんて入りません。先生は美術部の顧問でもないくせに……」  ―― お節介だと、言おうとした僕の声は、先生の言葉に掻き消された。 「―― いや、顧問だよ」 「……え?」 「俺、美術部の顧問なんだ」

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