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 ―― 背徳(17)

 僕の通う高校の最寄駅は、学校が多いことで有名な駅だ。  いろんな学生達が利用していることもあって、朝のこの時間帯は電車が着くと、いっせいに電車を降りる人達で、ホームから出口まで混雑する。  その人混みの中に、一際背の高い凌の頭が後方に見えていた。 ブリーチで赤っぽい髪の色が遠くにいても目立っている。  その派手な色が、人混みを掻き分けて、どんどん近付いてくるのが分かる。 「おい、伊織っ」  背後から呼び止められたのは、駅を出てすぐのところだった。  僕は、肩越しに振り向いて「おはよう」とだけ挨拶をして、また前を向いて歩く。 「なあ、なんでいつもの車両に乗らなかったんだよ」  そう言いながら凌は、先生とは反対側に回り込むようにして、僕に肩を並べた。 「別に、いつもの車両に乗らなきゃいけない理由もないし」 「なんだよ、つれないなぁ、シカトする気かよ、伊織」  後ろからは、隆司がふてくされた声で話しかけてきた。  別に無視をしたいわけじゃない。少し距離を置きたい……ただそれだけなんだけど。  隣を歩く先生の、クスッと漏らす声が聞こえて、凌が睨み付けている。  妙に緊張感のある空気のまま、四人で無言で歩いている光景は、多分異様なんだろう。  周りを歩く生徒達の、視線が纏わり付いていた。 「伊織、おはよう!」  学校の校門の手前で、この緊迫したムードに割り込むような明るい声に後ろから呼ばれて、振り返る暇もなく、背後から肩を軽く叩かれた。 「……おはよう、慎矢」  慎矢に難なく割り込まれて、自分の場所を盗られた凌の舌打ちが聞こえてくる。 「伊織って、いつもこの時間帯なんだ? 俺はいつももう一本遅い電車だったから、今まで会わなかったんだな」  明るい声で、俺もこの時間の電車に乗るようにしよっと。と言って、笑う。  慎矢は鈍感というか、人に悪意なんて感情があることを知らないのか、気付かないのか。 凌が、後ろから自分のことを凄い目つきで睨んでいるなんて、夢にも思わない。  慎矢のおかげで、凌に無駄に絡まれることもなく、教室に入ることが出来たけど。  鬱陶しくお節介な『友達』慎矢。  君は本当に真っ直ぐな心しか持ってないの? 人間は誰しも醜い部分があるはずなのに。  慎矢の素の部分を覗いてみたい……。それはごく単純な興味だったんだと思う。

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