120 / 330
―― 背徳(17)
僕の通う高校の最寄駅は、学校が多いことで有名な駅だ。
いろんな学生達が利用していることもあって、朝のこの時間帯は電車が着くと、いっせいに電車を降りる人達で、ホームから出口まで混雑する。
その人混みの中に、一際背の高い凌の頭が後方に見えていた。 ブリーチで赤っぽい髪の色が遠くにいても目立っている。
その派手な色が、人混みを掻き分けて、どんどん近付いてくるのが分かる。
「おい、伊織っ」
背後から呼び止められたのは、駅を出てすぐのところだった。
僕は、肩越しに振り向いて「おはよう」とだけ挨拶をして、また前を向いて歩く。
「なあ、なんでいつもの車両に乗らなかったんだよ」
そう言いながら凌は、先生とは反対側に回り込むようにして、僕に肩を並べた。
「別に、いつもの車両に乗らなきゃいけない理由もないし」
「なんだよ、つれないなぁ、シカトする気かよ、伊織」
後ろからは、隆司がふてくされた声で話しかけてきた。
別に無視をしたいわけじゃない。少し距離を置きたい……ただそれだけなんだけど。
隣を歩く先生の、クスッと漏らす声が聞こえて、凌が睨み付けている。
妙に緊張感のある空気のまま、四人で無言で歩いている光景は、多分異様なんだろう。
周りを歩く生徒達の、視線が纏わり付いていた。
「伊織、おはよう!」
学校の校門の手前で、この緊迫したムードに割り込むような明るい声に後ろから呼ばれて、振り返る暇もなく、背後から肩を軽く叩かれた。
「……おはよう、慎矢」
慎矢に難なく割り込まれて、自分の場所を盗られた凌の舌打ちが聞こえてくる。
「伊織って、いつもこの時間帯なんだ? 俺はいつももう一本遅い電車だったから、今まで会わなかったんだな」
明るい声で、俺もこの時間の電車に乗るようにしよっと。と言って、笑う。
慎矢は鈍感というか、人に悪意なんて感情があることを知らないのか、気付かないのか。 凌が、後ろから自分のことを凄い目つきで睨んでいるなんて、夢にも思わない。
慎矢のおかげで、凌に無駄に絡まれることもなく、教室に入ることが出来たけど。
鬱陶しくお節介な『友達』慎矢。
君は本当に真っ直ぐな心しか持ってないの? 人間は誰しも醜い部分があるはずなのに。
慎矢の素の部分を覗いてみたい……。それはごく単純な興味だったんだと思う。
ともだちにシェアしよう!