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―― 背徳(20)
「――っは……やめっ」
漸く唇が離れて、今度は首筋に噛み付いてくる。
「痛っ、噛まないで!」
渾身の力で凌の肩を押しやって、やっと密着していたお互いの身体の間に隙間ができた。
「は、ぁ……はぁ……も、やらないって……言っただ……ろっ……」
教室から屋上まで上がってきていきなりキスをされたから、息が上がってしまってうまく喋れない。
「はぁ? そんな事俺は認めてないぞ」
凌はいつも気が短いけれど、今まで見た事がないくらいに怒りに満ちた瞳で、至近距離に睨め付けてくる。
「――話があるんじゃなかったの?」
こんな事をする為に、ここまで従いてて来たんじゃない。
「話? 話なんてする必要ないだろう?」
そう言って、いきなり凌の手がズボンの上から中心を掴んでくる。
「期待しているんだろう?」
「馬鹿じゃないの?」
期待なんてするわけないじゃないか。クラスメイトと弁当を一緒に食べただけでヤキモチとか、付き合ってられない。
「放して、よ……ッ」
だけど凌は僕の身体をフェンスに押さえ付けながら、ズボンの上から掴んだそれを上下に擦り始めた。
「……や……やめて」
「ほらな、ちょっと触っただけで、もうこんなになってきた」
確かに、僕の身体はちょっと触られただけで熱くなっていく。
「そ、んなのっ、触られたら誰だって反応するじゃない……っ」
凌は口角を上げて、「ふん」と笑い声を漏らした。
「こんな厭らしい身体、大谷なんかが相手じゃ物足りないだろう?」
脚の間にじわじわと膝を入れてくる。
「……や……っ……あっ」
耳殻に舌を這わせながら、凌は太股で僕の中心を擦り上げる。
「それとも、あの先公にもう犯られちゃったのか?」
「……んん……っ」
また唇が重なって、するりと滑り込んできた舌に咥内を舐められて、思わず逃げを打った腰をがっしりと引き寄せられて、ベルトが外された。
目を閉じて相手が凌だと思わなければ、次にくる快感の期待に身を委ねることができるのに、やっぱり凌はそれを許さない。
僅かに離した唇の隙間から熱い息を吐き、「俺を見てろ」と、存在を主張する。
そしてまた唇が重なる。 力では到底凌には敵わない。
(――疲れる)
抵抗するだけ無駄なのだから、凌の気が済むまでやらせるしかなかった。
どうせ僕は、そんな風に生まれついたんだ。
諦めから身体の力を弛ませると、凌は満足げに笑いながら僕のズボンのファスナーを下ろして中へと手を滑り込ませた。
合わせる唇の角度を変える度にキスは深くなり、水音が増していく。
(父さん……)
恋しい人の姿を思い浮かべることもできない。
キスをしながら、凌の手が後ろに回り、いきなり指を埋めていく。
「……ん……ぅぅ」
感じる場所を指がほんの僅かに掠めただけで、合わせた唇の隙間から喘ぎ声が漏れてしまう。
僕の視線は目の前の凌を通り抜け、青い空を見ていた。
白い鳥が羽を広げて飛んでいる姿が空の青に映えて綺麗だな、なんて思いながら空へ手を伸ばしかけたその時、屋上のドアの開く音と、
「……伊織……」
小さく呟くように僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
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