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―― 背徳(22)
午後からは、さっきまであんなに晴れていた空がどんよりと曇り始めて教室内も薄暗い。 太陽も厚い雲に遮られ、今にも雨が降り出しそうな空。
きっと帰る頃までもたないだろうな……なんて、授業も聞かずに空を眺めていた。
ふと、視線を感じて隣を見れば、慎矢と目が合う。
僕が微笑むと、すぐに視線は逸らされてしまうんだけど……。
あれから5限目の休み時間も、慎矢は僕に話し掛けてこなかった。
もしかしたら嫌われてしまったのかもしれないな。
だけど僕は離れたりなんかしないよ、折角友達になれそうなんだから。
今日の帰りが楽しみで、授業中なのに自然に口元が緩んでしまいそうになる。
少しだけ開けてある窓から雨の匂いが風に乗って流れてくる。
ポツポツと、目を凝らさないと見えないくらいの雨がグラウンドを濡らし始めていた。
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「……どうしよう。僕、傘を持ってないんだ」
やっぱり授業が終わる頃には、雨は本降りになっていて、校舎の出口の庇の下で、僕は恨めしそうに空を見上げて呟いた。
「……あ、俺、折りたたみだけど持ってるよ」
そう言って、慎矢が傘を開いた。
「この雨じゃ、あんまり役に立たないかもだけど、一緒に入る?」と言って、軽く傘を僕の方へ差し掛けてくれる。
いつだってどんな時も優しい慎矢。だけど、やっぱりその声はいつもと違って覇気がない。
「……うん。でも悪いから、僕、雨がやむまで待ってるよ。慎矢は僕のことは気にせずに先に帰っていいよ」
そう言ってみたけど、慎矢がそれで納得するはずがないって事は分かっていた。
「この雨、暫くやみそうにないよ。これ以上酷くなる前に帰った方がいいし……」
と言って、僕の頭の上へ傘を差し掛けてくれる。
「そんなに僕の方に傾けたら、慎矢がびしょ濡れになっちゃうよ」
笑いながら傘の柄を握っている慎矢の手に、僕の手をそっと重ねて少し慎矢の方へ傘を戻した。
「……ん」
と、だけ返ってきて、慎矢の頬がほんのりと赤くなる。
「じゃ、帰ろっか」
折りたたみ傘の中で寄り添って、お互いの肩が触れ合う。
庇から出ると途端に、傘を打ち付ける雨の音がパラパラと大きく鳴った。
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