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 ―― 背徳(23)

 聞こえるのは、傘に打ち付ける雨音だけ。  まだ校門を出て間もないのに、慎矢と触れ合っている方とは反対の右の肩は、雨に濡れてブレザーの色が変わっていた。  でも僕よりも慎矢の方が濡れている。ブレザーの肩から肘にかけて、ぐっしょりと。  それはきっと慎矢が僕を気遣っているから。傘はずっと僕の方に傾けられたままだった。  慎矢は黙りこくったまま何も話さない。雨音を聞きながら、暫く僕達は無言で歩いていた。 「慎矢、傘……」  と、もう一度傘の柄を持つ慎矢の手をそっと押すと、僅かにピクリと慎矢の身体が跳ねた。 「もっとそっちに傾けないと、慎矢の方がびしょびしょになってる」 「あ……うん、これくらい平気だよ」  慎矢は、ちらっと自分の左肩を見ただけで、傘の位置を変えようとしない。 「ダメだよ、慎矢の傘なんだから」  僕は少し強引に、傘の柄を持つ慎矢の手を向こう側に押しやって、そのまま慎矢の手に自分の手を重ねたまま歩く。  二人で一緒に傘の柄を握っている状態。  隣を歩く慎矢の顔をちらりと見上げると、分かりすぎるくらいに頬が赤い。 「ねえ、慎矢。なんだか元気ないね?」 「…… え?そうかな。そんな事ないけど……」  そう言って慎矢は誤魔化してるけれど、さっきから……というか、昼休みが終わってから明らかに態度がおかしい。  理由は分かりきってる。 「何か……僕に聞きたいことがあるんじゃないの?」 「……」  僕の質問には応えずに、慎矢はきゅっと唇を噛み締めている。 「ねえ……僕達……友達なんでしょう?」  慎矢は声には出さずに、首を縦に振って応えた。 「じゃあ、なんでも話せる仲になりたいな。今までそういう友達って僕にはいなかったから」  慎矢の唇が僅かに動いた。  何かを言おうとしてるけど、その言葉をなかなか言い出せずに、また飲み込んでしまってるように見えた。  傘を打ち付ける雨音が、さっきよりも大きくなってきて、石畳の歩道から跳ね返る雨水で、制靴もズボンもしとどに濡れている。 「……あのさ……」  漸く慎矢が小さい声で言いにくそうに話し始めたのを、僕は相槌だけ打って黙って耳を傾けていた。 「……あの3年生の……速水さん? と、その……」  そこで一旦言葉を止める。  とても言いにくそうに、慎矢は空いてる方の手でしきりに頭を掻いている。  僕は慎矢と目が合わないように、雨に濡れる石畳を見ていた。 「……速水さんと……付き合ってるの?」  やっと紡がれた言葉。  それは雨音にかき消されてしまいそうな程、小さく掠れた声だった。

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