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―― 背徳(30)
「……どうしたの? していいよ」
至近距離で止まったままの慎矢は、僕がそう言うのを待っていたかのように唇を押し付けてきた。
ギュッと目を閉じた慎矢からは、緊張からか強張ったように震えているのが伝わってくる。
少し唇を緩ませてやると、その隙間から慎矢の舌が遠慮がちに入ってきた。
多分……初めてのぎこちないキス。それでも咥内に触れてくる慎矢の舌は熱に浮かされたように熱い。
重なり合った腰の辺りに、慎矢の制服のズボンの下から布を押し上げて主張している熱を感じる。
慎矢の着ているブレザーからは、仄かに雨の匂いが漂っている。
昨日僕を打ち付けた雨は、今日は慎矢の心を濡らしていたんだ。
「……は……っ……」
漸く唇が離れて、慎矢が熱の籠った息を吐く。
「……慎矢、重いよ」
全ての体重を掛けるように覆いかぶさっている慎矢の胸を軽く押した。
「――あっ、ご、ごめん」
慌てた様子で慎矢は僕に跨ったまま、上体を起こして顔を真っ赤にしている。
だけど、その瞳の奥に揺らめく炎は消えていなくて、薄く開いた唇からは乱れた呼気が零れていた。
――もう後には引き返せないよね。
僕は手を伸ばして、「これ、脱いでよ」と、慎矢の制服のボタンに手をかけた。
「……あ……」
ブレザーのボタンを外しながら慎矢を見上げて、何かを言おうとするその唇へ啄ばむようにキスを仕掛ける。
それを何度か繰り返してから深く唇を重ねて、慎矢の咥内へ舌を挿し入れた。
「……ん……」
歯列をなぞると、食いしばった歯の間に隙間が出来る。すかさず奥で縮こまっている慎矢の舌を絡め取った。
「……っ……ぅん……」
慎矢は重ねた唇の隙間から、時折苦しそうな吐息を零している。 構わず咥内に余すとこなく舌を這わせながら、慎矢のブレザーを肩から脱がせていく。
慎矢は制服の袖から腕が抜けると、自由になった手で僕の身体を掻き抱いた。
――近付いた距離の分、キスは深くなる。
慎矢は、僕のキスに応えるように、自分から舌を絡め合わせてきた。
次第に水音が激しくなって、舌はお互いの咥内を往き来し交わり合う。
口づける角度を変えながら、僕は脱がせた慎矢のブレザーを床へと落とそうとした。 その時、ブレザーから手を離す前に何かがコトッと床へ落ちる音がした。
慎矢もその音に気付いて、お互いの動きが止まる。
「……何? これ」
僕はベッドの上から床へ手を伸ばして、落ちていた布製の小さな巾着を拾い上げた。
少し開いた巾着袋から、綺麗なアクアマリンの石の珠が覗いていた。
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