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―― 背徳(32)
「慎矢が訊いた事は本当の事だよ。慎矢も見たじゃない、僕が屋上で凌としていた事」
慎矢の顔が一瞬で赤くなった。
「それで、その話を訊いて、昨日のキスの続きをしたくなったんだ」
「―― 違うっ!」
「違わないでしょう? ここ、こんなにしておいて、説得力ないよ」
何もしていないのにズボンの布を押し上げて硬く主張しているそこを、掌で撫で上げてやると、慎矢は慌てて腰を引いた。
「俺は……ただ、伊織が何でそんな事をするのか、何で誰とでもいいだなんて言うのか、何か理由があるからなんじゃないかって……」
「理由? そんなものは無いよ。僕はただ気持ちいい事が好きなだけ。男無しではいられない淫乱。ただそれだけだよ」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「俺は伊織が心配なんだ。友達なんだから何でも相談してほしいし、俺はお前の事をちゃんと知りたいんだ」
「ふーん、友達になるには、僕を理解しなければいけないって事なんだ」
また友達と言う言葉を使う慎矢に苛立ってしまう。その友達相手に欲情している癖に!
「いいよ、教えてあげるよ」
僕は立ち上がり、パジャマのボタンを、ゆっくりと外していく。
慎矢の肌の色とは違う、青白い貧弱な肌を見せつけるように。
上衣を脱ぎ捨て、ズボンも下着と一緒にずらし片足ずつ抜いて、床に落とした。
「……やめろよ、伊織……」
一糸まとわぬ姿で立つ僕から、慎矢は目を背ける。
本当はしたい癖に。 本心を隠して偽善者ぶっても、もう遅い。
だから慎矢が後ろめたくないように、慎矢の好きな言葉で道を作ってあげる。
「僕と友達になってくれるんでしょう?」
それには、同じ場所で同じものを見るのが手っ取り早い。
でも、この線を越えたら、もう引き返せなくなってしまうけど。
――僕のいるところまで堕ちなければ、解るはずもない。
「……ほら、ちゃんと僕を見てよ」
一歩、僕が近付くと、慎矢は一歩後退る。
「……伊織……こんな事は、しちゃいけない事なんだ……」
否定する声が自信なさげに小さくなっていく。
「懺悔なら、僕が訊いてあげるよ」
ぐっと一気に身体を近づけると慎矢の身体が強張る。唇に触れるだけのキスをしても、彼はもう拒まなかった。
そのまま足元に跪き、制服のズボンのベルトを外し、ファスナーを下ろす。
下着の中に指を潜り込ませて、パンパンに張り詰めたものを取り出した。
先端からは、もう透明の雫が溢れている。僕は、舌を伸ばして、その雫を舐め取っていく。
「……い、おり……」
慎矢が吐息と共に、僕の名前を唇から零す。
また胸の奥が締め付けられて、苦しくなってきた。
また何かを手放してしまうような気がして。心の何処かで迷ってる自分がいる。
―― 本当にいいの? 慎矢を僕のと同じところまで堕としてしまっても。
そんな事を考えるなんて、今日の僕はどうかしてる。
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