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 ―― 背徳(34)

「……伊織……っ」  慎矢の瞳の情欲の色が濃いくなる。  欲望に支配されて我を忘れて、僕が壊れるくらいにこの身体を愛してほしい。  慎矢は僕の身体を掻き抱くと、そのままベッドに倒れ込んだ。  まるで飢えた獣のように、唇に貪り付いてくる。  ぎこちないけれど激しい口づけに目眩を覚える。  目を閉じて、その口づけを受けながら、あの人に愛されてる自分を想像する。  熱くて激しい感覚は、あの人が与えてくれてるんだと思えば、僕の身体はこれ以上ない程に興奮した。  でもそんな想像をしても余計に虚しくなるだけだと、本当は分かってる。  友達としてでなく、ただの性欲処理の道具でなく、死んでしまった人の代わりでもなく、  ――ただ一人の人に愛されたいだけなのに。  ねえ慎矢、今の慎矢にとって、僕という存在は何だと思う?  それはきっと、凌や、他の人達と同じ。  君にとっては、僕なんてただの性欲処理の道具。  今は、好奇心と初めての行為に夢中になっているだけ。  身体の中で渦巻く熱を放つことで、気持ち良くなれることを知ってしまったら、もう理性なんて消えてしまう。  僕のことを友達だなんて、君はもう言えなくなるんだ。  なら僕も、君を誰かの代わりだと思ってもいいよね。 「……好きだよ」  慎矢の耳に唇を寄せて、偽りの愛を囁きながら耳朶を食む。 「……っあ……、んっ」  耳の溝を舌でなぞり、その奥へと舌先を挿し入れて水音を立たせると、慎矢は小さく喘いで身体を震わせた。 「気持ちいい? なら、僕にも同じようにしてよ」 「……伊織……」  慎矢が、僕の名前を呼びながら耳に唇を寄せる。  熱い息が耳を掠めてくすぐったい。  僕がしたのと同じように、慎矢も僕の耳朶を食んで溝を舌先が擽る。  中に侵入してきた舌先が蠢いて、水音が大きく僕の鼓膜を震えさせてくれる。  咥内に含まれた耳全体が、熱い吐息に包まれた。 「……ねえ、慎矢も服を脱いでよ……」  そう囁くと、まだ上衣を着たままだった慎矢は、身を起こしてネクタイを解き、制服のシャツのボタンをプチプチと外していく。  シャツの前立ての間から見え隠れする、程よく筋肉の付いた身体に僕の胸が高鳴った。  慎矢は僕を見下ろしながら、ブレザーとシャツを一気に脱ぎ捨てる。  その眼差しは、いつもの慎矢とは全然違う、『男』そのもの。  日に焼けた肌と、綺麗にひきしまったしなやかな身体だった。 「……綺麗だね、慎矢」  僕に跨っている慎矢の身体に思わず手を伸ばした。  しっとりとした健康的な肌に指を滑らせて、胸の小さな肉粒に触れてみると、そこはすぐに硬く尖ってしまう。 「……ッ……」  僕が触ると慎矢は敏感に反応して、胸を弄る僕の手を捕らえた。

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