138 / 330

 ―― 背徳(35)

「……ふふ、くすぐったかった?」  からかうように言うと、慎矢は恥ずかしそうに伏し目がちに僕を見つめた。 「僕はね……ここ触られるの好きだよ」  慎矢に掴まれた手を引いて、自分の胸の尖りに触れさせた。 「……伊織……」  慎矢の指先は、遠慮がちにまるで壊れものでも扱うように、胸の尖りに触れる。  目を閉じて、父さんの愛撫の感触を思い出すと、その優しすぎる刺激は物足りなかった。 「……慎矢、もっと強く触っていいよ」  もっと無茶苦茶にして、僕が粉々に砕けてしまえるくらいに。  僕の言葉で火が付いたのか、慎矢がそこに貪りつくように覆いかぶさってきた。  敏感になっている尖りを、舌先で押し潰されて、強く吸い上げられる。 父さんの姿を思い浮かべると、痺れるような痛みが快感に変わる。 「……っあ……ぁ……もっと強くして……」  慎矢は僕の求める通りに、さっきよりも強く、そこを何度も愛撫してくれた。 「……慎矢」  慎矢の髪に指を挿し入れて名前を呼ぶと、慎矢はそこを愛撫しながら上目遣いに僕を見る。 「……キス……したい」  キスは嫌いな筈なのに、気が付けば僕はそんなことを口走っていた。  慎矢が上体を伸ばして、お互いの熱い唇が重なり合う。  慎矢の舌を咥内に誘い、唾液を送り合いながら、僕は目を閉じてあの人を想う。  慎矢の広い背中に腕を回し、抱きしめると、慎矢もしっかりと僕の身体を抱き返してくれた。  ――ああ……とても暖かい……。  何のわだかまりもなく、父さんにただ愛されていると思えるような、そんな気がして。  ほんのひと時だけど、相手が慎矢だということも忘れて、僕は必死に彼の身体を縋るように抱き締めていた。  ――父さんとひとつに繋がりたい。  そう思うだけで、身体の奥が熱く疼く。 「慎矢、僕を上にさせて」  逞しい腕に抱きしめられて、慎矢は身体を反転させて僕の願いを聞いてくれる。  ベッドヘッドに置いてあるボトルを取り、ローションを指に纏わせる僕を慎矢は下からじっと見上げていた。  僕は慎矢に微笑みかけて、そのまま覆いかぶさるようにして唇を重ねた。  お互いの熱い息を混じらせながら、僕は自分の後孔に指を伸ばす。 「……ん……ぁ……」  そこに指を挿し入れて、先を急ぐように中を解していく。 合わさった唇の隙間から、甘い吐息を漏らしながら。  僕の行為に気付いた慎矢は、腕を伸ばして僕の双丘を優しく両手で撫でてくれる。 「……ん……」  閉じた瞼の裏に浮かぶ父さんの繊細な指先に、優しく触れられている気がして、僕の半身は次々と透明の雫を先端から零し始めていた。

ともだちにシェアしよう!