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―― 背徳(36)
「……ん……っ……」
優しく触れる慎矢の指も、自分の指でさえ、あの人の愛撫だと思えば、胸の奥に狂おしい程の熱情が込み上げてくる。
僕の望みは、ただあの人に愛されたいだけ。 心も身体も全部ひとつになって溶け合うような、あの感覚が恋しい。
自分の中から指を引き抜くと、僕は上体を起こして慎矢の腰に跨った。 彼の猛りを後ろ手に掴み、期待にひくつく後孔へと誘う。
もう何も考えられなくて、ただただ、愛して欲しくて。
相手が慎矢だということも忘れるくらいに、こんなに気持ちが高揚するのは久しぶりだった。
ゆっくり腰を落として、熱い屹立を呑み込んでいくと、慎矢が小さく呻くような声を零した。
自分の重みで、最奥を押し上げられる感覚に、ぞくぞくとした快感が身体を駆け上がってくる。
「……はっ……ああっ」
自分の好きな部分に当たるように腰を揺らして、熱い息を吐きながら昇り詰めていく。
「……あぁ、愛して……僕を好きだと言って……」
無意識に声に出してしまった望み。それは、脳裏に描く父さんへ向けた言葉だった。
「……伊織っ」
不意に腰を両手で抱き締められて、身体が反転する。
「……あぁっ!」
両脚を抱え上げられて、僕は目を開けてしまった。
「……しんや……っ、あっ」
膝裏を押し上げて、慎矢は膝立ちで上から体重を掛けながら腰を打ち付けてくる。 律動は激しくて、肌のぶつかる音がパンパンと派手に響く。
「っ、いおりっ、好きだ……好きだよっ」
僕がそう言ってと、声に出してしまったから、慎矢はそれに応えてくれたのかもしれないけれど。
――駄目だよ、そんな事を言っては駄目。
慎矢の言ってくれるその言葉は、まるで意味を持たないものだから。
僕を見下ろす慎矢の顔は、友達だと言ってくれた時のあの表情はどこにも見えない。ただ、欲を押し付けてくるだけの、他の男達と同じものだった。
それが悲しくて堪らないと、今更思ってしまうなんて、僕は馬鹿だ。だって、僕がそうさせてしまったんだから。
――ごめん……。
僕が、もっと素直に君の言うことを受け入れることが出来ていたら良かったね。
慎矢は、もう二度と戻れない、その時の気持ちには。僕は自分から欲しいものを手放したんだ。
上辺だけの薄っぺらい関係をずっと否定し続けていた。でも、もしかしたら、信じられるかもしれないなんて、甘い期待を無意識に持ってしまっていたのかもしれない。
まさかこんな気持ちをまだ持っていたなんて、自分でも驚いたけれど。
ホント……悲しくて、堪らないね。
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