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―― 背徳(37)
「……伊織、どうした? ごめん、もしかして痛かった?」
眦から一筋零れた涙に、慎矢は驚いて動きを止める。
「……何でもない」
「……伊織」
心配そうに見詰める瞳。僕が何を考えてるかも分からないのに、こんな時でも優しい慎矢。
でも、もう友達にはなれないね。
「慎矢、もっと強く突いて、痛いくらいに。壊れてもいいから、もっと滅茶苦茶にして」
そう言って、僕は慎矢の頭を引き寄せて唇を塞ぐ。
舌を絡めて、舐めて、吸い上げて、キスの合間に「早く僕を壊して」と囁いた。
慎矢が律動を再開する。
僕は目を閉じて、自分の中心へ手を伸ばして指を絡める。
「あぁ……っ、もっと……っ」
僕の声に合わせるように、慎矢は腰を突くスピードを上げていく。
ポタポタと慎矢の汗が肌に落ちてくる。 その雫はすごく熱くて気持ちいい。
瞼の裏に、父さんの汗ばんだ肌を思い浮かべながら、僕は自分のモノを握り込んだ手を上下させた。
「っ、いおり……くっ……」
慎矢の呻くような声が聞こえて、熱い飛沫が身体の奥に広がっていく。
僕を抱いているのは、友達なんかじゃない。
悲しくなんかない。 ほら、気持ち良くて、僕もほぼ同時に頂点に届く。
手の中の半身がドクンドクンと脈打ち、慎矢と僕の肌をただの欲で汚していった。
*
「……満足した?」
達した後、慎矢はそのまま僕に覆いかぶさっていて、荒い呼吸を吐きながら肩を上下させている。
僕の問いかけに、掠れた声で、「……え?」と、訊き返してきた。
「……気持ちよかった? って聞いてるんだよ」
慎矢は少し身体を浮かせ、僕の顔を見下ろして、「……あ、ああ、うん」と頷いた。
「そう、じゃあ満足したんならもう帰ってくれる?」
そう言って、僕は脱力した慎矢の重い身体を押し退けて起き上がると、床に落ちている服を拾い上げベッドに放り投げた。
「……伊織……」
慎矢は怪訝な顔をしながらも、制服を身に付けていく。
僕は床に置いてあるスポーツバッグを手に取り、制服を着終えた慎矢に裸のまま歩み寄り、彼の目の前に持ち上げて見せた。
内股を慎矢の欲の名残りが伝い落ちていく。
「……また明日ね」
スポーツバックを慎矢に手渡して、にっこりと笑う。
慎矢はそれを受け取りながら、「……伊織……」と、何かを言いかけたけど、僕は無視して言葉を被せた。
「これからは、ヤりたい時はいつでも言ってくれていいから」
そう言って部屋のドアを開く。
僕の言葉に慎矢の表情がみるみる強張っていくところを見ながら。
――きっとあともう少し。
「伊織、俺はっ!」
――あとひとことで、慎矢は僕を嫌いになる。
「早く帰ってお祈りした方がいいんじゃない? 自分は友達と寝てしまいましたって」
これって、罪なんだよね?って、耳元に囁くと、慎矢の顔色が一瞬のうちに青褪めた。
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