142 / 330
―― 背徳(39)
*****
翌日は、2日間降り続いた雨もあがり、青い空と澄んだ空気が心地よい。こんな爽やかな朝は自分にはまるで似合わない……と思う。
そう、こんな天気が似合うのは……明るくて、太陽のように笑う人。
慎矢だったら、こんな青空の下をその澄んだ瞳でまっすぐに前だけを見て歩くのがきっと似合う。昨日のことは、不運な事故だったとでも思って、僕のことなんて忘れてしまえばいい。
いつもと変わらない一日が、また始まるだけなんだ。
乗り換えの駅で、担任の藤野先生が僕を待っているのも、いつもと同じ。
学校の最寄り駅で電車を降りて、改札までの混雑の波に流されるように歩くのも同じ。
駅を出た辺りで、凌達に追いつかれるのも同じ。
――慎矢が隣に居ないのも、いつもと同じだ。
ただひとつだけ違っていたのは……登校して教室に入っても、1時限目の授業が始まっても……隣の席は、空いたままだった。
『慎矢のやつ、朝練で足ケガしちゃってさ』
休み時間に、慎矢と同じ陸上部のクラスメートが話しているのが聞こえてきて、慎矢が朝練で怪我をして病院に行ったらしい事を知った。
陸上部の朝練は、必ず出ないといけないものではないらしくて、自主練したい者だけが参加している。
慎矢が今迄にも、朝練に出ていたかどうかは知らないけれど。
僕より遅い電車に乗っていたと言っていたから、今日の練習に出たのは、急に思い立っての事だったんだろう。
――朝、僕と同じ電車に乗りたくなかったとか……。
多分、そんなところだろう……と考えると、また胸の奥がツクンと痛んだ。
――怪我って、どの程度なんだろうか。
もうすぐ大会があるって、言ってたような気がするけど……。そこまで考えて、僕は溜息を吐く。何を考えてるんだ僕は……慎矢の心配をするなんて。
授業がたいくつで、窓の外へ視線を廻らせる。
こんな天気の良い日は、屋上からの景色も遠くまで見えるだろうな……なんて考えていると、ふとグラウンドの側を歩いてくる人影が目に留まる。
――慎矢だ。
怪我ってどの程度だったのかは分からないけれど、松葉杖なんかは持っていないことにホッと胸を撫で下ろしてる自分に気が付いて、思わず苦笑してしまう。
遠目だからよく分からないけど、少し足を引き摺っているように見えた。
ともだちにシェアしよう!