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 ―― 陽炎(4)

 自分の部屋に逃げ込んで、南に向いてる窓を開ける。  窓から流れてくる爽やかな風で、火照ってしまった身体が冷めてくれるかもしれない。 「……は……ぁ……」  触れられた肩がまだ熱くて、あの感覚が忘れられなくて、身体の奥で火が灯り、じわりと下腹部が疼く。  少し触られただけなのに、僕の淫らな身体はそれだけで熱くなってしまう。  それは、慎矢に触られたから、だけじゃない……。 それがすごく嫌だった。  その事を慎矢に知られてしまうのが、何故か怖かった。  頭の中に、どうしても父さんの姿が浮かんでしまう。  肩に置かれた手が、僕のシャツのボタンを外し、肌へ直接触れてきて……、 「……っ、ぅ……」  そんな事を想像してしまう僕は変なんだ。  慎矢と一緒に居て、忘れていたのに……。  少し触れらただけで、慎矢にじゃなく、父さんを思い出して欲情するなんてことを、慎矢にだけは知られたくないなんて。 こんな風に思ったのも初めてで、頭の中が酷く混乱していた。 「おい、伊織、急にどうしたんだ、大丈夫か?」  僕が、そんな不埒な想像をして欲情しているなんて、夢にも思っていない慎矢が、僕を心配して部屋に入ってくる。 「……だから、何でも……ないってば」  部屋に入って来た慎矢をチラリと肩越しに見て、また窓の外に視線を戻す。  なるべく平静を装っていることなんて気付かない慎矢は、僕の横に立って窓の外を覗き込む。  肩が触れ合う位置にまた心臓がドキリと高鳴る。 僕は、慎矢に気付かれないように、さりげなく半歩横に移動して近くなった距離を空けた。 「んー、良い天気。ここから見える景色って、最高だね」  少し高台になっているこの場所は、あの階段から見る景色よりも少し高い位置にあるから、慎矢の言う通り最高だと思う。  でも僕は、あの階段のあの位置から見える景色の方が好きだった。  この家の二階から見える景色よりも、もっと……身近に感じることが出来る気がして……。 「天気良いから、海まで綺麗に見えるな」 「……そうだね」 「俺の足がこんなだから、何処にも遊びに行けなくて、ごめんな」  窓の外の景色を見ていた慎矢は、僕の方へ身体ごと向き直り、申し訳なさそうな声で謝った。 「……なんで謝るの? 僕は別に何処かに行きたいわけじゃないし」  近い距離で頭の上から落とされた声と共に、慎矢の呼気が僕の髪を揺らした。 たったそれだけで背中が甘く粟立っていく。

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