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―― 陽炎(6)
「……伊織?」
「ねえ、慎矢」
慎矢が何か言おうとするのを遮るように言葉を被せ、僕の頬に触れてる慎矢の手を上から強く押さえた。
「……セックスしようよ」
驚いた表情の慎矢を見上げながら、頬に触らせていた手のひらに唇を寄せる。
「……お願いだよ」
「な、何言ってんだよ、なんで、そんな話になるわけ……」
なんで……って、だって、仕方ないじゃないか、僕の身体は変なんだから。僕にだって分からないよ。それに悪いのは慎矢だ。
「慎矢は、僕のことを好きだと言ったじゃない。なのに、どうして何もしてこないの」
「――それは……」
「好きなら、やりたくなるのは当然なんじゃないの? ほら……」
掴んでいる慎矢の手を、僕の形を変えてしまっている部分へ導いて誘う。 ほら、布越しに触れている慎矢の手のひらも、こんなに熱くなってるじゃないか。
「――ッ」
慎矢の息を呑む音が聞こえた。
「さっきからずっと、こんなになってるんだ。だから……」
「だ、駄目だってば!」
引き抜こうとする手を、逃げないようにしっかりと握り、唇が触れ合う距離まで近付いてやる。
「キス……してくれないの?」
そう言うと、慎矢の身体が僅かに弛んで、唇に温度を感じた。 だけど、その唇はすぐに離れて、濡れた感触だけを残していく。
「……それだけ?」
さっきは驚いて動揺していたくせに、慎矢は、もう落ち着きを取り戻した表情で、僕を静かに見下ろしている。
「もう、僕になんて欲情しない?」
僕のことを、好きだと思うと言ったのに、それ以上のことはしないなんて。 本当はそういう関係をやっぱり罪だと思っているのか。 慎矢の気持ちは、そんなところなのかもしれない。
「僕は、もうこんなになってるのに」
自分の中心に触らせている慎矢の手を、上から強く押さえ付けて慎矢を見上げた。
「……そんなこと、ないよ。俺もお前に欲情してる」
そう言って、慎矢は僕の手を取って、自分の中心を触るように促した。
慎矢のそこも、僕と同じように硬くなって、形を変えている。
布越しからでも、熱い温度が手のひらに伝わってくる。 その形を確かめるように指先でなぞり、手のひらで包み込むと、慎矢の呼気が僅かに乱れた。
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